<前回から続く>
AIに投げかけた質問内容
前回の最後で、AIに投げかける質問を挙げました。
「能力不足で従業員を解雇した場合について、判例の傾向を分析してください」
です。
これを某判例と連携した法務AIサービスと、私が制作したAIの双方に投げてみます。
某サービスの回答
次のようなことが回答されました。一部を引用します。
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判例上、解雇が認められるためには、能力不足が「著しく」、かつ「向上の見込みがない」ときで
あることが必要とされています。具体的には以下の点が検討されます。
重大性: 単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じさせているか、あるいは
重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に達していること。
相対評価の限界: 人事考課が相対評価である場合、下位の評価が続いたという事実だけでは、直ちに
解雇すべきほどの業績不良とは認められない場合があります。
裁判例は、解雇の相当性を判断するにあたり、使用者が是正のための努力を尽くしたかを重視します。
改善の機会: 注意・警告を与え、反省を促したにもかかわらず改善されないことや、一定期間内に
業績が改善しない場合の解雇の可能性を具体的に伝えた上での機会付与が求められます。
指導の具体性: 原因を究明し、問題意識を共有した上での具体的な改善策の提示が必要です。一度や
二度の注意指導のみでは不十分とされる傾向があります。
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などなどです。
まだ続くんですが、あんまり書きすぎると某サービスが何なのかが分かってしまうので、ここまでに
しておきます。
正直言って、ここまで回答できるというのはすごいと思います。
前回書いた、①判例では条文をどのような意味で捉えているか、②判例がどのような場合に①にあてはま
ると言っているのか、ということについて明確にされています。
ただ、③本件が具体的に②に当てはまるのか、については、「こういう場合には該当するが、こういう
場合には該当しない」という分析がされていないのがちょっと残念かなと思います。
ざっくり言えば、「判例の文章の引用が全然ない」ということですね。引用がないから、どういう場合に
どうなるのかという分析ができない。やっぱり判例を別途読んで分析しないといけない、ということに
なります。
私の制作したAIの回答
これも長いので、一部を引用します。
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能力不足を理由とする解雇に関する判例傾向の分析
- 基本的な法的枠組み
解雇権濫用法理(労働契約法16条)
解雇の有効性は、「**客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その
権利を濫用したものとして無効**」とする労働契約法16条に基づき判断されます。
能力不足が解雇理由となるための要件
能力不足が解雇理由として認められるためには、単なる能力不足の存在だけでは不十分であり、**「能力
不足等により企業経営に支障が生じるなどして、企業から排除すべき程度に達していること」**が必要とさ
れています(エス損害保険事件)。
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- 雇用類型別の判例傾向
(1) 中途採用の管理職・専門職
【原則】 純粋な潜在的能力の不足のみで解雇の合理性が認められるケースが比較的多い。
① 職務限定型の中途採用
- 具体的な成果を出せなかった場合に解雇が有効とされやすい傾向がある
- 裁判所は、「長期雇用を前提として新卒採用する場合と異なり、最初から教育を施して必要な能力を
身につけさせるとか、適性がない場合に全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではない」と判示した事例が
ある
- ただし、就業規則の解雇事由が「将来の見込みがない」等の文言であれば、改善努力への期待可能性
も考慮される(語学能力を期待された中途採用事案)
#### ② 記者職での中途採用(ブルムバク・エル・ピ事件)
- 「会社は当該記者との間で具体的改善矯正策を講じたとは認められない」として解雇を無効
- 中途採用であっても、改善指導の実施が求められることが明らか
#### ③ 医師等の専門的資格保有者
- 資格保有という点から「能力不足」と単純評価するよりも、職務上の行動をコンピテンシー面から評価
した上で解雇の合理性を判断する傾向がある
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(2) 一般社員・非管理職
【原則】 職務限定の有無を問わず、能力不足単独での解雇は認められにくい。
#### ① 判断の総合性
能力不足のみならず、以下の要素を総合的に考慮して判断される:
- 労働意欲の欠如
- コンピテンシー面での問題(勤務態度・行動様式)
- 業務遂行の態様の問題
#### ② 相対評価による人事考課と解雇(セガ・エンタプライゼス事件)
- 人事考課が平均的水準に達せず、考課順位が下位10%未満の従業員を解雇した事案
- 相対評価である以上、「相対的に下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえない」として、
解雇事由はきわめて限定的に解釈されなければならないと判示
- 「さらなる教育・指導により労働能率の向上を図る余地がある」として解雇を無効
- 東京地裁平成11年10月15日決定においても、「著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがない」場合で
なければならないとした
#### ③ 成績不良・業務ミス(森下仁丹事件)
- 成績不良で業務上多数のミスをした者の解雇について
- 「従業員としての適格性がなく解雇に値するほどの技能発達の見込みがないとはいえない」として解雇を無効
#### ④ 絶対評価が用いられた場合(PwCファイナンシャル・アドバイザリー・サービス事件)
- 人事考課が絶対評価として行われていたために、マネージャー職としての能力不足が否定された事例もある
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内容としては、某サービスと一見同じように見えます。
でも判例検索で重要なのは、「判例ではどう言っていて、それに基づくとどういう場合にはどうなるのかが分かる
ような分析が欲しい」ということなんです。なぜなら、全く同じ事実関係の案件なんて絶対にないですから、判例が
あればどういう結論になるか、ということを予想できるような分析を求める必要があるんです。
そういう意味でいえば、某サービスの回答は、何かしらの書籍の丸写しであって、AIによる分析はどこにもない
といえるわけです。
AIにおける判例分析の可能性
でも、AIの能力ってそんなもんじゃないんです。
すさまじい情報分析力を持っています。
だから、判例の動向分析ぐらい、余裕でできます。
その点私の制作したAIは、その「判例の動向分析」に絞って回答しているわけなので、ある程度それを行えたと
いうことになると思いますが、私の制作したAIといっても、皆さんが普段使っているAIに、判例と政府のガイド
ラインやガイドブックを読ませただけです。
今回の質問でいえば、厚生労働省のガイドブックと大阪府のガイドブックと判例だけです。
ただ、とにかく面倒くさい。
例えば、判例といっても、どこでどんな判例が必要になるかは分からないので、ガイドラインやガイドブックに
載っている判例の原文にあたり、それをAIが読みやすいように調整して保存する。ということを延々と繰り返す
んです。
もちろん、第一審(地裁など)の判決が控訴された場合には、「第一審では●●と判断されたが、控訴審では●●
と判断された」とかいうようにデータ化します。
それ以外にも、関連する判例があれば手あたり次第にデータ化する。
そういう地道な作業をしたうえで成り立っているものです。
それでも私がそういうことをするのは、単に「自分が欲しい情報を欲しいだけ得られることによって、クライアント
の事業に貢献する」という目的を達成するためだけです。
既存のサービスで満足できないから自分で作った、というだけのことです。
言い換えれば、自分で作れるんだ、ということです。
先日、企業法務を手掛ける某巨大法律事務所が、今後はAIの進化に適合した業務改革を急いでいる、というようなことが
日本経済新聞に出ていました。
巨大法律事務所ですらやっとこさ急ぎ始めている状況ですから、もっと小規模の法律事務所だともっと遅い。
そのうち、マンパワーをフルに生かした作業をもとに作った企業のAIが、弁護士の分析能力を超えるのは時間の問題だと
思います。
そうならないうちに、弁護士は手を打たないといけないなと思います。
私も負けないように、日々精進します。