AIで判例検索ってできるの?

今回は、AIを判例検索に使ってみます。
判例検索と一言で言っても、実際にどこまでできるのか、という点を突き詰めていきたいと思います。

その前の前提として、法律業界で判例ってどのぐらい重要なのかを知っていただきたいと思います。
そんなん知ってるわ、という方は、「法律業界における判例の重要性」というところを飛ばして
お読みいただければと思います。

法律業界における判例の重要性

法的紛争における判例の位置づけ

判例とはいうまでもなく、裁判についての裁判所の最終判断のことをいいます。
法律的な紛争が起こり協議をしたものの結論が出なかったために裁判になり、裁判所が判決という形で
結論を出すことになります。
判決というのは、どのように紛争を解決するかの結論となるものです。

判例は前例となる

ある法律的な紛争が起こったとします。今回は、ある会社から次のような相談があったとします。

「能力不足の従業員を解雇したら、解雇が無効だと言って争ってきた。どうすればいいか」

解雇については労働契約法16条というのがあります。そこでは、

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を
濫用したものとして、無効とする。」

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、いわゆる解雇権濫用法理を定めたものです。
この条文からは、解雇が無効となるケースが2つあることになります。
1つは「客観的に合理的な理由を欠き」に該当すること。
もう1つは「釈迦通念上相当であると認められない」に該当すること。
です。

では具体的にどういう場合に、これらの2つが認められたり認められなかったりするのでしょうか?
それは最終的には裁判所が決めるということになるのですが、「同様の裁判が他でもあったから、
それを踏まえれば、今回のケースの結論は●●になるだろう」という予測を付けることができることに
なります。

このように、判例は前例となる、ことがあります。

三段論法と判例

判例は先例となるので、上記のような相談があったときには、過去の判例ではどうなっていたかを調べる
ことになります。

ではどう調べればいいのでしょうか?

法律に基づいて結論を出す、という作業は、以下のような過程を経ます。

まず、条文の意味を確定させる。上記のケースでいえば、「客観的に合理的な理由を欠き」と「社会通念上
相当であると認められない」とはどういう意味なのか、です。ここについて、判例ではどういう意味として
把握しているのかを調査します。

次に、どのような事実があればその条文に該当する、もしくは該当しない、という判断がされるのか、を
調査します。上記のケースでいえば、どういう事実関係があれば「客観的に合理的な理由を欠き」に該当
するのか、また、どういう事実関係があれば「釈迦通念上相当であると認められない」に該当するのか、
ということを調査します。

さらに、相談を受けた案件では、上でいう「どういう事実関係」に当てはまるのかどうなのかを調査します。
例えば、能力不足であることを口頭で説明したがペーパーにはしていなかった場合に、客観的に合理的な理由
があるという「事実関係」に当てはまるのかどうか、について判例ではどのように示されているかを調査する、
といった感じです。

このように、①規範を定立する、②事実を分析する、③当該事案をあてはめる、という三段論法で、判例の
調査を行います。

AIを使って判例検索って

どこにAIを使う?

以上のように、AIを使うとすれば、①判例が条文の意味をどのように捉えているのか、②判例はどういう場合に
条文にあてはまると考えているのか、③実際の案件が②に該当すると言っていいのか、の3点です。

では、本当に使えますか? というのが今日の本題です。

AIを判例検索に使う際の問題点

検索ソフトの中に組み込まれた判例データ

判例検索サービスというのがあちらこちらにあります。弁護士で使っていない人はいないでしょうし、裁判所でも
使っています。
これらはキーワードとか判決日とかを入力して、それに該当する判例のリストが出てきます。そして人為的に、
そのリストをクリックしたら判例が映し出されて、PDFでダウンロードしたりすることができる仕組みになって
います。

以前も書きましたが、AIは、自分で検索して、検索結果にリンクされているデータ(PDFなど)を読みに行くことが
できません。ですので、判例検索サービスは、文字通り判例を検索するだけであって、上記の①②③のいずれも
できません。

法務AIサービスのデータ検索

最近、企業法務や弁護士向けに、判例検索サービスと連携した法務AIが出回っています。これによれば、上記の
①②③はできるのでしょうか?

某サービスのウェブ広告に、こういう記載がありました。

「AIの回答から根拠となる判例・法令へ、ワンクリックで連携」

これって要は、AIの回答自体には判例や法令の具体的な内容はなくて、ワンクリックしないと判例や法令の具体的な
内容を見ることができない、ということだと思います。

この「ワンクリック」というのが曲者で、上で書いたように、「クリックしたら判例が映し出されて」という点が、
「クリックしなくても、AIの回答内容に判例をバッチリ反映させられています」という風にはなっていないんです。

AIはどこまで判例をチェックできるか?

というわけで、某法務AIサービス(上のウェブ広告のものとは違いますが、判例との連携をうたっているサービスです)
と、私が制作したAIとに、次のような質問をしてみます。

「能力不足で従業員を解雇した場合について、判例の傾向を分析してください。」

先程の①②③がきちんとできていないと答えられない質問です。

さて、どうなるか。

<次に続く>