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【弁護士監修】説明不足の契約書は有効か?説明責任・説明義務を弁護士が解説

【弁護士監修】説明不足の契約書は有効か?説明責任・説明義務を弁護士が解説

説明不足は、法的にどう扱われるでしょうか?

1. 説明責任・説明義務とは?

「きちんと説明してくれていたら、こんな契約しなかったのに……」ということはありませんか? たとえば、次のようなことです。

  • ある会社と雇用契約をして出勤してみたものの、雇用される前に説明されていた仕事内容と全然違っていた。
  • クーラーを買うときに店員さんから「このクーラーは自動で洗浄しますよ」と説明されていたのに、買って使ってみたら、その機能が付いておらず、買うときの説明のとおりではなかった。
  • 自宅を建てようと思って土地を買ったけれど、実は自宅の前が自治会のごみの集積場になっていた。仲介業者からは、買うときの説明で、自宅の前がごみの集積場になっているという説明をされていなかった。
  • 自宅の壁をリフォームした。リフォームの時にはリフォーム後の壁がどのくらいもつのかという説明がなかった。あとで調べたら、選んだサイディングが実は7年ほどしかもたないものだと分かった。リフォーム業者が事前に説明しておいてくれたら、このサイディングを選ばなかったのに。

説明不足を理由に、何かしらの請求をされることがあるのでしょうか。またそもそも、これらは説明不足なのでしょうか?

2. 法律の規定で説明責任・説明義務を負う場合

法律の規定で説明をしなければならないと定めている場合があります。たとえば、人を雇う場合には、給料の額や働く場所などを説明する義務があります。

通常は「労働条件通知書」に記載されており、雇用主は労働条件通知書を守る義務があります。逆に言えば、労働条件通知書で説明していなかった条件で雇用することはできない、ということです。

また、不動産の売買や賃貸においては、宅地建物取引士が契約前に、面積や法律上の制限などがあるかどうかを説明しなければならないことになっています。

その他、保険や株式などの金融商品を取り扱う業者は、金融商品の価値が下落することがあるなどのリスクを説明しなければならないことになっています。このように、法律で説明しなければならないと定めている場合があります。

3. 法律で説明が義務付けられている場合、説明の内容は?

民法1条2項が根拠──でも範囲はあいまい

では、契約するときには何でもかんでも説明をしておかないといけないのでしょうか。そもそも説明責任・説明義務がなぜあるのかについて、最高裁判所は、民法第1条第2項(権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない)を根拠にしています。

つまり「契約する以上、お互いが相手に対して誠実でなければならないから、相手に契約前に説明すべきことはきちんと説明して、相手がその説明によって契約の内容を理解できるようにしなければならないですよ」と示したということになります。

ただ、「きちんと説明して」とはどういう内容のことを説明すればいいのか、どのぐらい詳しく説明すればいいのか、など、どういう説明が「きちんと」にあたるのかは、はっきりしません。

先ほどの労働条件通知書でも、仕事の内容を事細かに具体的に書いて説明する必要はありません。もしそんなに具体的に書かないといけないとなると、従業員を異動させられなくなるからです。

雇用主は労働条件通知書で説明したことを守る義務があるので、仕事の内容を事細かに説明しないといけないとなると、異動の都度、従業員から「労働条件通知書で説明していたことと違うじゃないか!」と言われ、説明義務に違反していると評価されてしまう。それでは会社が成り立ちません。ですので、①の事例で説明義務違反というのは、やや無理があります。

なお、労働法制には独自の規制や判例があり、それによる制限はあります。たとえば転勤については、「配転命令について業務上の必要性が存しない場合又はその必要性が存する場合であっても、他の不当な目的・動機をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときに限って、配転命令は無効となる」とした判例(最高裁判所昭和61年7月14日判決)などがあります。

不動産の売買や賃貸でも、重要事項説明書に何を書くか(何を説明しなければならないか)は法律で定められていますが、自治会がどう運営されているかは、通常説明する必要がありません。自治会はあくまで住民が自主的に運営しているもので、自治会での取り扱いは「法律上の制限」にあたらないからです。

③の事例でも、何を説明していればよいのかが分からない以上、説明義務違反というのは難しいです。

4. 法律で定められていなければ何も説明しなくていい?

最高裁判所が上記のように示した以上、労働関係や不動産取引や金融商品の取引など法律で説明が義務付けられている場合でなくても、民法第1条第2項を根拠に説明責任・説明義務があるとされる場合もあります。ただ、説明責任・説明義務があるとされるのは結構難しいです。

「信義誠実に反する」の証明は難しい

というのも、民法第1条第2項の「信義に従い誠実に」という基準は、どういう説明をすれば「信義に従い誠実に」といえるのかがはっきりしない規定だからです。

「●●について説明責任・説明義務を負っている」ということを、説明義務違反を主張する側が証明しないといけないのです。

この証明が非常に難しい。たとえば②のケースで、買った人が「クーラーに自動洗浄機能が付いていないという説明をしてもらっていなかった。その説明を聞いていたらこのクーラーを買わなかった」と主張したとします。すると売ったお店は「自動洗浄機能が付いているとは説明していない。また、説明を聞いていたら買わなかったということも知らなかった」と言うでしょう。

そうすると買った人は、「(ア)およそクーラーの売買をする際には、自動洗浄機能が付いていることを説明しなければならない義務がある」ことと、「(イ)その説明を受けていたら、私はこのクーラーを買っていない」ことを証明しないといけません。

私の経験上、最も難しいのは(ア)を証明することです。なぜなら、説明しなければならない内容を推し量る根拠となる法律が、はっきりとは存在しないからです。

④の事例も同様で、サイディングがどのくらいもつかについては、実際のリフォームでは、サイディングの良し悪しもさることながら、サイディングの継ぎ目を埋めるコーキング剤という液体状のものの良し悪しが重要になります。ではリフォーム業者は、サイディングの機能の説明だけでなく、コーキング剤の性能まで説明しなければならないのでしょうか。

民法第1条第2項には具体的な説明事項が定められていないので、「●●という事情や事実関係があるから、▲▲という説明をしていないと、法的に見て信義誠実に反するというべき」と言い切れるだけの●●をいっぱい積み上げて▲▲を作り上げる、という作業が必要となりますが、これに成功するのが非常に難しいのです。

それでも証明できる場合──積み重ねが鍵

たとえば④の事案でいえば、なぜその業者にリフォームを依頼したのか(「すごく長期間もつリフォームをします」と書かれたチラシを見たからなら、チラシを証拠にできます)、値段はいくらか(明細などをもらっていれば証拠にできます。そこそこの値段ならそこそこの作業をしてしかるべきと考えられます)、業者との間でどのような書類を交わしたか(サイディングについての嘘の説明が書かれていたなど)、などがポイントになります。

そして「チラシの記載、値段交渉の経緯、請求書の明細、業者と交わした書類の内容からして、サイディングやコーキング剤にどのようなものを使うのか、またそれらの耐用年数がどれぐらいなのかを説明すべき義務があったというべきである」といえるよう、組み立てていくわけです。

でも、裁判所はなかなか説明義務を認めてくれません。それはなぜかというと、裁判所には「買う側もある程度情報を収集しておくべきだ」という発想があるのだと思います。

逆に言えば、「売る側が説明しないと、さすがに買う側が知ることはできないだろう、というときに民法第1条第2項を根拠に説明義務を認める」という発想があるのだと思います。

5. 消費者契約法における説明義務

消費者契約法では、企業側が顧客に対して嘘の説明をすると不実告知に該当し、契約を取り消すことができる場合があります。

たとえば、業者が事故車ではないことを口頭で確認して中古車を購入したが、後日整備に出したら事故車だと分かった場合、契約をするかどうかを判断するための重要な事項について真実と異なることを告げているので、不実告知に該当し契約を取り消すことができるとされています。

この事例は、令和5年9月に消費者庁から発信されている消費者契約法の逐条解説に挙げられているものです。詳しくは同解説に譲りますが、なかなか説明義務違反になりにくいとお考えいただいたらよいかと思います。

6. 最後に

何十年も前には、今よりも説明義務が認められる範囲が広かったように思いますが、今はかなり狭くなったように感じます。それはある程度、誰もがインターネットで情報を集められるようになり、裁判所が説明義務を認めていた根拠の1つである「売る側と買う側の持っている情報量の圧倒的な違い」がなくなってきたからだと思います。

消費者契約法の令和4年改正でも、業者による情報提供義務についての規定がされましたが、あくまで「情報を提供するよう努める」にとどまっており、情報を提供しなかったら即違法というわけではありません。

不動産取引関係の事案ですが、「一般に、不動産の売買契約において、買主は、不動産を購入するか否か、購入するとして購入額をいくらとするかについて、自らあるいは媒介業者の助力を得て、近隣の取引事例等を調査するなどした上、最終的には自らの責任において判断すべきである。……一般的には、買主の調査能力や媒介業者の役割が期待できる場合には、売主は、買主に対し、仕入価格や近隣の取引事例の価格等を調査し、説明する義務を負うものではない」という判例があり(東京地方裁判所令和7年3月27日)、買主に調査能力があればそれだけ売主の説明義務の範囲が狭くなる、ということになります。

裁判所の意識は、おおむねそのような方向にあると思います。

もっとも、SNSなどで嘘の情報が蔓延しているため、何が真実なのかを自分で判断しなければならない時代も来ました。契約をするにあたっては、まずは情報をできるだけ集め、その真偽を自分自身で確かめる必要があると思います。

そして、相手の説明をよく聞く。「相手の説明に不足はないか」「自分が説明してほしいことを全て説明してもらったか」、また「その説明を聞いたから自分は契約したんだ、ということを相手に伝えたか」など、説明に関して必要となることはたくさんあります。

「ネットにはこう書いていたんだけど、これはどういうことなの?」と確認するのもいいと思います。

よく「説明不足だ」とクレームをする方がいらっしゃいますが、実は「説明不足」を主張することは法的にはそんなに簡単ではない、ということを知っておいていただきたいと思います。

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