法律事務所には、クライアントの機密情報が絶え間なく流れ込んできます。契約交渉の内容、未公開の事業計画、人事上のトラブル——これらはいずれも、外部に漏れることがあってはならない情報です。そのため私は当初から、ChatGPTをはじめとする市販のAIサービスにデータを入力することに根本的な懸念を抱いていました。弁護士法23条が定める守秘義務は、便利なツールへの誘惑があるときこそ、厳格に守られなければならないと考えています。
まず試みたのは、自分のPC上で完結するローカルAIの構築です。外部にデータを一切送信しないこの方式であれば、守秘義務の問題をクリアできます。実際にシステムを組み上げ、企業法務への適用を試みました。しかし運用を続けるなかで、ある壁にぶつかりました。GPUの性能に根本的な限界があり、長文の契約書や大量の判例を処理するために必要なコンテキスト長——つまりAIが一度に把握できる文脈の量——が、企業法務の実務水準に到底届かなかったのです。
「セキュリティを守ること」と「十分な処理能力を確保すること」。この二つを同時に満たす唯一の解として選んだのが、AWSの閉じた環境での構築でした。外部のAIサービスにデータを送ることなく、AWS大阪リージョン内だけで処理を完結させることができます。試行錯誤の末に辿り着いたのが、現在稼働中のAmazon Bedrockを核としたシステムです。守秘義務を完全に担保しながら、企業法務に必要十分な分析精度を持つシステムを、ついに実現することができました。