1. AIで法務がどこまでできるか
(1) スタンダードな契約書の作成
弁護士堀内は企業法務をメインで行っていますので、毎日なにかしらの契約書をチェックしています。「継続的に売買の取引をすることになったんですが、買主から契約書のドラフトが来ました。契約書をチェックしていただけますでしょうか」という感じです。この場合、クライアントは売主です。
それで契約書を見るのですが、「一見すると必要なことは定められているのに、所々違和感がある」ということがあります。たとえば、いきなりよく分からない用語が使われているとか、日本企業同士が日本で取引するのに国際管轄についての定めがあるとか。
よく分からない用語を使う場合には、前もって「●●とは▲▲ということをいう」という定義のための規定を置く必要がありますし、日本企業同士が日本で取引するための契約ですから、国際管轄の規定は通常不要です。
こういう場合は、たいてい契約書がAIで作られています。つまり、AIは最大公約数的にスタンダードな契約書を作ることができるんです。
それは売買契約だけでなく、金銭消費貸借契約書や賃貸借契約書、業務委託契約書などでも同様で、もはや「定型的な契約書の作成で済むなら弁護士は不要」という時代が来ているといえるでしょう。
(2) スタンダードでない契約書の作成
では、AIは最大公約数的でもスタンダードでもない契約書を作ることができないのでしょうか。私はパソコンを自作し、そのパソコンにAIモデルをインストールして、ローカル(インターネットをつなげない状態)でAIを使用できるようにシステムを作り、実際にそのAIを運用しています。
クラウドAIも一般的な事項の調査には使いますが、クライアントごとの業務にはクラウドAIを使用しません。専ら情報漏洩が怖いからです。
そのローカルAIを使って、かなり詳細な条件を加えて契約書を作ると、結構具合のいいものが作れます。その「詳細な条件」をどのようにAIに加えるのかは省略しますが、結論的には「AIをうまく使えば、最大公約数的でもスタンダードでもない契約書を作ることができる」ということなんです。
むしろ私は、この点こそがAIの真骨頂だと思っています。
2. 法務分野でAIができないこと
ある程度AIを使ったことのある方ならお分かりだと思います。法務分野でAIができないこととは、「詳細な条件とは何か」を定義づけることです。
「詳細な条件」の定義づけ──運送費用負担を例に
たとえば、売買契約に「商品の運送費用は売主負担とする」という定めがあったとします。これは誰に不利でしょうか。一見、費用負担をする売主に見えます。
しかし、商品価格に運送費用を転嫁されると、運送費用は結局のところ買主負担になります。さらに売主が運送費用を割り増しで転嫁したら、買主が自己負担で運送したほうが結局は安くつく、ということもあり得ます。そうなると買主に不利です。
また、売主が事前に商品を購入して自社の倉庫に保管し、注文があり次第、買主に運送するというビジネスモデルだったとします。すると「商品の運送費用」とは売主の倉庫から買主の納品先までの費用ですから、商品の製造元から売主の倉庫までの運送費用だけでなく、倉庫での保管費用も売主負担になります。
これらの費用を全部売買代金に転嫁できるかというと、なかなか難しい。そうすると売主としては、せめて商品の運送費用は買主に負担してほしい、ということになります。
そこで問題になるのが、「詳細な条件」として何をAIに組み込むかです。「売主が運送費用を負担しなくて済む」という条件を組み込むのか、「売主は売るべき商品を倉庫で管理している」という条件を組み込むのか、はたまた「運送費用と運送業者は買主が自由に決めることができる」という条件を組み込むのか。
そこは人為的に組み込まないと、AIはそれを踏まえた判断をしません。なにせAIは「人間の模倣をする」のが仕事ですから。「雰囲気を感じ取ってよ」では、AIは動きません。
3. 最後に
そうなると弁護士の役割は、ビジネスモデルから読み取れる「詳細な条件」の洗い出しと、適切なAIの設定をしてAIを的確に使用すること、の2点だと思います。
自分で実際にローカルAIを使ってみて、「これは、AIを使った弁護士でないと分からないことだな」と痛感しました。
皆さんの周りに、ローカルAIを自分で運用している人はそう多くはないでしょうし、しかも弁護士の業務にローカルAIを使用している弁護士というと、ほとんどいないと思います。
でも、あと2〜3年で、法律業務におけるAIの存在意義が強く認識されることになるんじゃないかと思っています。先んじたものが制す時代だと思います。