「日本にもAIの法律ができたらしいが、罰則はないと聞いた。ならば、うちは特に何もしなくていいのだろうか」
——この夏、経営者の方から何度か伺った質問です。結論から申し上げると、「罰則がないから何もしなくてよい」という理解は、実務上かなり危ういと考えています。
2026年7月14日、政府は第Ⅱ期人工知能基本計画(副題「日本AX、より強く、より豊かに」)を閣議決定しました。この計画には、企業に直接の義務を課す条項はありません。しかし、この計画が動かすものは、その後に企業へ降りてくる指針・調査・取引条件です。
この記事では、次の順序で整理します。前半でAI法(AI推進法)という法律そのものの構造を条文レベルで押さえ、後半で「では企業は何をすべきか」を具体的な手順に落とします。
- そもそもAI法とはどんな法律か(全28条の構造と、企業に関係する条文)
- 人工知能基本計画とは何か、誰がいつ決めたのか
- 第Ⅱ期計画で何が変わったのか(エージェント型AIという新しい前提)
- 罰則がないのに、なぜ企業に効いてくるのか(第16条という要注意条文)
- AI事業者ガイドラインとの関係
- 【まとめ】企業が講じるべき7つの対応
本記事は2026年8月18日時点の情報に基づく解説です。条文はe-Gov法令検索、計画の記述は内閣府公表の本文および概要資料、国会答弁は国会会議録により確認しています。それでも確認しきれなかった論点は、記事末尾に明記しました。
この記事の要点(30秒まとめ)
- ①AI法は「推進法」であって「規制法」ではない。罰則も禁止規定もありません。ただし第7条は国等の施策への協力を「協力しなければならない」と規定しており、条文の書きぶりは単なる努力義務より一段強い点に注意が必要です(履行確保手段はありません)。
- ②ただし第16条がある。国はAIの活用実態やリスク事案を調査し、事業者に指導・助言・情報提供その他必要な措置を講ずるとされています。そして第Ⅱ期計画は、この第16条を「より機動的に運用する」と明記しました。
- ③第Ⅱ期計画の主役はエージェント型AIです。AIを「業務を支援するツール」ではなく「意思決定・実行を担う主体」と位置づけ直しています。責任の所在が問題になる場面が、確実に増えます。
- ④実務で効いてくるのはガイドラインです。AI事業者ガイドラインは2026年3月31日に第1.2版が公表済み。Living Documentとして改定され続ける建て付けで、基本計画の方向性は次の版に反映されていきます。
- ⑤今やるべきことは棚卸しです。どの業務で、どのAIを、どのデータとともに使っているか。ここが不明なままでは、指針改定にも取引先の質問にも対応できません。
第1章 そもそもAI法とはどんな法律か
基本計画の話に入る前に、その根拠となっている法律を押さえておきます。ここを飛ばすと、「罰則がないなら関係ない」という誤解に着地しやすいためです。
正式名称と成立の経緯
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)です。長いため、実務ではAI法あるいはAI推進法と呼ばれます。
施行は二段階でした。2025年6月4日に公布されると同時に第1章・第2章が施行され、その後2025年9月1日に、第3章(基本計画)と第4章(戦略本部)を含めて全面施行されています。本記事で扱う基本計画の根拠規定が動き出したのは、この9月1日からということになります。
日本で初めて、AIを正面から扱った基本法です。ただし名称に「推進」とあるとおり、性格は規制ではなく振興にあります。
全28条・4章の構造
条文の並びを見ると、この法律が何をしようとしているかが分かります。
| 章 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 第1条〜第10条 | 目的、定義、基本理念、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民それぞれの責務、連携強化、法制上の措置 |
| 第2章 基本的施策 | 第11条〜第17条 | 研究開発の推進、施設・設備の整備、適正性の確保(第13条)、人材確保、教育振興、調査研究等(第16条)、国際協力 |
| 第3章 人工知能基本計画 | 第18条 | 本記事の主題である基本計画の策定根拠 |
| 第4章 人工知能戦略本部 | 第19条〜第28条 | 内閣総理大臣を本部長とする司令塔組織の設置 |
お気づきでしょうか。この法律には「〜してはならない」という禁止規定も、「違反した者は〜に処する」という罰則規定も存在しません。あるのは、国の責務と、施策の方向性と、司令塔の設置です。
企業に直接関係する第7条──書きぶりに注意
企業に関する条文は第7条(活用事業者の責務)です。ここでいう活用事業者とは、AI関連技術を活用した製品・サービスを開発または提供する者のほか、事業活動においてAI関連技術を活用しようとする者を含みます。つまり、AIを作る側だけでなく使う側も対象です。
第7条が求めていること(前段と後段で書きぶりが違います)
【前段】自ら積極的なAI関連技術の活用により、事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努める。
【後段】国および地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。
ここは正確に読んでおく価値があります。前段は「努める」という努力義務の書きぶりですが、後段の「国等の施策への協力」は「協力しなければならない」という義務的な文言です。
もっとも、違反した場合の履行確保手段も罰則も置かれていません。その意味で、実質的な拘束力を持たない訓示的な責務規定にとどまる、という評価が一般的です。とはいえ、条文上「しなければならない」と書かれている以上、後述する第16条の調査に対して「協力する義務はない」と突っぱねるのは、法的に無理があるということは押さえておくべきでしょう。
ここまでだけを読めば、冒頭の「うちは何もしなくていいのでは」という反応は、まったく自然です。問題は、この先にあります。
第2章 人工知能基本計画とは何か
人工知能基本計画とは、AI法第18条に基づき、政府が人工知能戦略本部の審議を経て策定する、AIの研究開発と社会実装に関する国の基本方針です。
推進法である以上、法律本体には具体的な施策が書き込まれていません。「何を、どの順序で、どれだけの資源を投じてやるのか」を決めるのが、この基本計画という役割分担になっています。
これまでの経緯
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2025年6月4日 | AI法 公布 |
| 2025年9月1日 | AI法 全面施行 |
| 2025年12月23日 | 第Ⅰ期 人工知能基本計画 閣議決定 |
| 2025年12月19日 | 適正性確保指針(AI法第13条)人工知能戦略本部決定 |
| 2026年7月14日 | 第Ⅱ期 人工知能基本計画 閣議決定(本記事の対象) |
ここで一点、企業側が見落としやすい記述があります。概要資料には「本基本計画は当面毎年変更」し、適切なベンチマーク(KPI等)を設定してモニタリングする、と明記されています。
つまりこの計画は「一度読めば数年もつ文書」ではありません。毎年書き換わる前提で設計されています。ウォッチの体制を作らなければ、いずれ置いていかれるということです。
推進体制
司令塔は人工知能戦略本部(本部長=内閣総理大臣、構成員=全閣僚)です。その下に関係府省庁による人工知能戦略推進会議、有識者から意見を聴く人工知能戦略専門調査会が置かれています。
全閣僚が構成員という体制は、この分野を政府全体の課題と位置づけていることの表れです。特定の省庁の所管事項という扱いではありません。
第3章 第Ⅱ期計画で何が変わったのか
4つの基本方針
第Ⅱ期計画は、AIとの向き合い方を4つに整理しています。
| 方針 | 主な内容 |
|---|---|
| AIを使う (利活用の加速的推進) | エージェント型AIの積極適用、政府の率先導入、ガバメントAI「源内」のオープンソース化、中堅・中小企業と地方でのAI導入支援(地域AX) |
| AIを創る (開発力の戦略的強化) | 計算資源・データセンター・半導体・電力といった基盤の確保、バーティカルAI(領域特化型)とフィジカルAI(ロボティクス・自動運転)への重点投資、AI for Science |
| AIの信頼性を高める (ガバナンスの主導) | AI法第16条に基づく調査研究等のより機動的な運用、AI法を含めた制度の不断の見直し、AISIの評価能力強化、サイバーセキュリティ(Project YATA-Shield) |
| AIと協働する (社会に向けた継続的変革) | 産業構造・雇用環境の再構築、権利侵害や損害が生じた場合の責任分界の継続検討、知財の保護と透明性確保、リ・スキリング |
あわせて4つの原則——イノベーション促進とリスク対応の両立/アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応/挑戦と学習/内外一体での政策推進——が掲げられています。
最大の変化は「エージェント型AI」という前提
第Ⅱ期計画を読んで最も印象的なのは、AIの捉え方そのものが変わっている点です。概要資料は冒頭でこう述べています。
AIの位置づけの転換
AIは業務を支援するツールから、意思決定・実行を担う主体へと進化している。エージェント型AIが急速に伸長し、産業・安全保障を含めた広範な分野で業務全体を自律的に回す基盤になりつつある——という認識が示されています。
これは、法務の観点からは見過ごせない転換です。AIが「道具」であるうちは、責任の所在は使った人間にあると整理しやすい。しかしAIが自律的に判断し実行する主体になると、「誰の判断だったのか」という問いが、途端に難しくなります。
計画がこの点を認識していることは、記述からも読み取れます。「エージェント型AIも前提に、AI利活用時における権利侵害や損害が発生した場合などの責任分界について、継続的に検討」と明記されているためです。
裏を返せば、現時点でその整理は済んでいないということです。ルールが固まっていない領域で事故が起きれば、既存の民法・個人情報保護法・各業法に当てはめて処理されます。「新しい技術だから前例がない」は、免責の理由になりません。
バーティカルAIとフィジカルAI
重点分野として名指しされているのがこの2つです。
| 区分 | 意味 | 該当しやすい業種 |
|---|---|---|
| バーティカルAI | 特定の業種・業務領域に特化したAI。汎用AIではなく、現場の暗黙知を取り込んだもの | 医療、金融、教育、防災、法務、建設、製造 など |
| フィジカルAI | ロボットや車両など、物理世界の機器と連動するAI | 製造業(産業用ロボット)、物流、自動車、インフラ点検、農業 など |
ここはチャンスとリスクが同時に来るところです。官民の投資が集中する一方、社会実装が進めば事故も起き、ルール整備の対象にもなります。特にフィジカルAIは人身損害が現実に発生しうる領域であり、製造物責任や安全規制との接点が避けられません。
第4章 罰則がないのに、なぜ企業に効いてくるのか
ここが本記事で最もお伝えしたい部分です。「罰則がない=実務に影響しない」ではありません。経路は4つあります。
AI法第16条による調査・指導・助言
国は、国内外のAI関連技術の動向に関する情報収集、不正な目的や不適切な方法による権利侵害事案の分析、その他の調査研究を行い、事業者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとされています。
そして第Ⅱ期計画は、この第16条に基づく調査研究等を「より機動的に運用する」と明記しました。これは実質的な運用強化の宣言です。
事業者名の公表
国会審議では、悪質な事案について事業者名を公表できるかが論点になりました。政府は原則公表とはしないものの、個別の案件ごとに公表の是非を適切に検討していく旨を答弁しています。
ここで公平を期すために付け加えると、政府側は「これは制裁的な措置ではなく、あくまで調査した事実の公表である」という立場を明確にしています。公表ルールについても、AI戦略本部の議論を経て公平で透明なものを定めていくと答弁されました。
とはいえ、企業から見れば、社名が公表された時点で取引や採用への影響は避けられません。制裁を意図していないことと、不利益が生じないことは別の話です。
他方で、附帯決議では、調査・指導等に当たって営業秘密等の知的財産の保護に配慮し、過度に重い負担や情報開示を求めないよう留意することが求められています。無制限の調査権限ではありません。
指針を通じた実質的な基準化
AI法第13条(適正性の確保)は、国が国際的な規範の趣旨に即した指針を整備すると定めています。これを受けて、2025年12月19日に人工知能戦略本部が「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」を決定しました。
ここは階層を取り違えやすいところです。第13条の指針はこの適正性確保指針であり、次章で述べるAI事業者ガイドラインは、その趣旨と整合するかたちで整備される下位のガイドライン群のひとつという位置づけになります。
いずれも法的拘束力はありません。しかし裁判で過失の有無が争われる場面では、「当時の標準的な注意義務」を測る物差しとして参照されえます。公的な指針から明らかに外れた運用をしていた事実は、不利に働く可能性があります。
取引条件・調達基準としての波及
実際に最も早く効いてくるのは、この経路かもしれません。政府調達の基準にAIガバナンスの要件が入れば、元請けは下請けにも同じ水準を求めます。大企業との取引でも、AI利用に関する質問状やチェックシートが送られてくる場面が増えています。
このとき求められるのは法令遵守の証明ではなく、「御社はAIをどう管理していますか」という問いへの回答です。答えられなければ、取引の土俵から外れます。
EU AI法・韓国AI基本法との違い
海外展開のある企業は、ここを混同しないことが重要です。
| 法域 | 性格 | 制裁 | 日本企業への適用 |
|---|---|---|---|
| 日本 AI法 | 推進法。禁止規定・罰則なし | なし(事業者名公表の可能性) | 国内事業者 |
| EU EU AI法 | 規制法。リスク階層ごとに実体義務 | 制裁金あり | 域外適用あり |
| 韓国 AI基本法 | 規制法。透明性確保義務など | 過料あり | 域外適用あり |
日本国内の基準を満たしていても、EU向け・韓国向けの事業は別途の対応が必要です。詳細は別記事で扱っていますので、該当する企業はあわせてご確認ください。
第5章 指針・ガイドラインとの関係を整理する
ここは混同されやすいところなので、文書の階層を先に示します。
| 文書 | 根拠・決定主体 | 役割 |
|---|---|---|
| AI法 | 法律(令和7年法律第53号) | 基本理念と責務、施策の枠組みを定める |
| 人工知能基本計画 | 第18条/閣議決定 | 何を、どの順序でやるかの方針を定める |
| 適正性確保指針 | 第13条/人工知能戦略本部決定 (2025年12月19日) | 研究開発・活用の適正性に関する国の指針 |
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省 | 上記の趣旨と整合する実務上の手引き |
基本計画が「方向性」を示す文書だとすれば、企業が実際に手を動かす際の物差しになるのがAI事業者ガイドラインです。総務省と経済産業省が共同で策定しています。
| 版 | 公表時期 |
|---|---|
| 第1.0版 | 2024年4月19日 |
| 第1.01版 | 2024年11月 |
| 第1.1版 | 2025年3月28日 |
| 第1.2版 | 2026年3月31日(現行最新版) |
ガイドラインは、AIを開発する立場・提供する立場・利用する立場それぞれの観点から、必要な取組の基本的な考え方を示すものです。多くの企業は「利用する立場」に該当します。
第Ⅱ期計画は、AISI(AIセーフティ・インスティテュート)を中心とした技術的評価能力を確立・強化し、その評価結果が制度・運用改善に接続される仕組みを整備するとしています。また、AI利活用に伴う権利侵害に関する法的整理を含め、各種ガイドラインを整備する方針も示されました。
したがって次回以降のガイドライン改定に、基本計画の方向性が反映されていくことは十分に見込まれます。特にエージェント型AIの取扱いと責任分界は、有力な候補です。
【まとめ】企業が講じるべき7つの対応
ここからが本題です。直接の義務がない段階だからこそ、いま手をつけておく価値があります。義務化されてから慌てるのと、先に整えておくのとでは、かかるコストが違います。
優先順位をつけて7つ挙げます。上から3つまでは、規模を問わずすべての企業にお勧めします。
AI利用箇所の棚卸しを行う ★最優先
すべての出発点です。どの部署が、どの業務で、どのAIサービスを、どんなデータを入れて使っているかを一覧にしてください。
多くの企業では、情報システム部門が把握していないAI利用が現場で始まっています。生成AIに議事録を貼り付ける、契約書を要約させる、顧客リストを分析させる——これらは全社的な把握なしに、個人の判断で行われがちです。
棚卸しの項目は、①利用部署 ②利用目的 ③使用サービス名 ④入力するデータの種類(個人情報・営業秘密の有無) ⑤出力の使い道 ⑥人間による確認の有無、の6つで十分です。
入力してはいけないデータを明文化する ★最優先
棚卸しの結果、ほぼ確実に「入れてはいけないものが入っている」ことが判明します。個人情報、取引先の営業秘密、未公表の財務情報、従業員の人事評価——。
ここは基本計画を待つまでもなく、個人情報保護法と秘密保持契約の問題として、今すぐ手当てが必要な領域です。取引先から預かった情報を外部AIに入力すれば、契約違反になりうる。この一点だけでも、ルールを1枚にまとめる価値があります。
最終確認は人間が行う体制を、記録として残す ★最優先
エージェント型AIが前提になるほど、「最後に人間が確認したか」が決定的な意味を持ちます。責任分界の整理が未了である以上、現時点で企業を守るのは「人間が判断した」という事実と、その記録です。
重要なのは、体制があることではなく体制があったと後から証明できることです。確認者・確認日時・確認内容が残る運用にしてください。
自社がバーティカルAI・フィジカルAIに該当するか判定する
該当する場合、支援策の対象になる可能性がある一方、ルール整備の対象にもなります。特にフィジカルAI(ロボット、自動運転、機器制御)は人身損害が現実に起こりうるため、製造物責任、安全規制、保険の設計を先に確認しておくべきです。
「うちはAI企業ではない」と思っていても、製造ラインの制御にAIが入っていればフィジカルAIです。自社での判定が難しければ、ご相談ください。
ベンダー契約を見直す(責任分界の条項)
外部のAIサービスを使っている場合、そのサービスの出力によって損害が生じたとき、誰が責任を負うのかを契約書で確認してください。
多くのAIサービスの利用規約は、提供者側の責任を大幅に限定しています。「出力の正確性は保証しない」「利用者の責任で検証すること」という条項は標準的です。つまり現状のリスクは、利用する側にほぼ全て乗っています。
あわせて、入力したデータが学習に使われる設定になっていないかも確認が必要です。
知的財産の取扱い方針を決める
第Ⅱ期計画は、適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性の確保、コンテンツホルダーへの対価還元を推進するとしています。この分野は今後動きます。
企業側で確認すべきは2方向です。①自社が生成AIで作った成果物の権利関係(著作権が発生するか、第三者の権利を侵害していないか)、②自社のコンテンツが第三者のAIに使われていないか。特に①は、広告物やデザインを外注している企業で問題になりやすい論点です。
ウォッチする担当を決める(毎年変わる前提で)
基本計画は当面毎年変更されると明記されています。AI事業者ガイドラインも約2年で4回改定されました。この頻度は、担当者を決めずに追える速度ではありません。
専任である必要はありません。「四半期に一度、所管省庁の公表を確認する」と決めて、担当と時期を割り当てるだけで十分です。最低限、内閣府(基本計画)、総務省・経済産業省(AI事業者ガイドライン)、個人情報保護委員会(個人情報保護法関連)の3か所を押さえてください。
今週やるなら、この順で
| 順序 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1日目 | 各部署に「業務でAIを使っているか」を照会する | メール1通 |
| 2〜3日目 | 回答を6項目の一覧表にまとめる(対応1) | 1〜2時間 |
| 4日目 | 一覧を見て、入力してはいけないデータが入っていないか確認する(対応2) | 1時間 |
| 5日目 | 問題のある利用を止める、またはルールを1枚にまとめて周知する | 半日 |
本稿執筆時点で未確認の論点
正確を期すため、確認できていない点を明記します。
- 数値目標(KPI)の具体的な内容と予算措置の規模は、計画上「適切なベンチマーク(KPI等)を設定しモニタリングする」とされているのみで、具体的な数値は特定できませんでした。
- AI事業者ガイドラインの次回改定の時期と内容は、本稿執筆時点で公表されていません。
- 第16条に基づく調査の運用実績(実際に調査や公表が行われた事例)は、確認できませんでした。
- エージェント型AIの責任分界に関する政府の結論は、継続検討とされており未確定です。
おわりに
「罰則がないから、まだ何もしなくていい」——冒頭の問いに戻ります。
法律の条文だけを見れば、その理解は間違っていません。AI法に罰則はなく、事業者の責務は努力義務にとどまります。ですが、企業が実際に不利益を被る経路は、罰則以外にいくつもあります。調査と指導、事業者名の公表、ガイドラインを通じた注意義務の基準化、そして取引条件としての波及です。
そして何より、AIが原因で情報漏洩や権利侵害が起きたとき、責任を問うのはAI法ではありません。個人情報保護法であり、秘密保持契約であり、民法の不法行為です。これらは今日から適用されています。
第Ⅱ期計画が示したのは、AIが「道具」から「主体」へ移りつつあるという認識でした。その移行期に、どこまでを機械に任せ、どこから先を人間が引き受けるのか。この線引きを自社の言葉で決めておくことが、結局のところ最も確実な備えになると考えています。
当事務所は、企業法務とAIの双方を実務として扱っています。AIを使った法務システムを自ら構築・運用しており、「導入する側の実感」を持ったうえで法的な整理をお示しできることが特徴です。自社のAI利用に不安がある、取引先から質問状が届いた、ベンダー契約を見てほしい——そうしたご相談をお受けしています。
一次情報
- 内閣府「人工知能基本計画」
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html - 内閣府「第Ⅱ期人工知能基本計画」(令和8年7月14日閣議決定)本文PDF
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20260714.pdf - 内閣府「第Ⅱ期人工知能基本計画(概要)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_g_20260714.pdf - 内閣府「AI法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_act/ai_act.html - e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000053 - 内閣府「AI戦略」
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/index.html - 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf
本記事は一次情報および公表資料の整理であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については、必ず専門家にご確認ください。