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【弁護士監修】AIに法律を聞くなら「結論」ではなく「ファクター」を聞け──弁護士が実践するAI質問術

【弁護士執筆】AIに法律を聞くなら「結論」ではなく「ファクター」を聞け──弁護士が実践するAI質問術

前回の記事「AIに企業法務を相談してみてわかったこと」で、AIに法律の「結論」を委ねるのは危険だとお伝えしました。では、弁護士は実際にどうAIを使っているのか。

今回は、私が日々実践している具体的なAI質問術を公開します。結論を一言で言えば、AIには「結論」ではなく「結論を左右するファクター(考慮要素)」を聞く、ということです。

本記事は、企業法務を専門とし、自社開発のAI法務システムを日常的に運用する弁護士が、実務での使い方にもとづいて執筆しています。

この記事の要点(30秒まとめ)

  • AIに「▲▲はどうなる?」と結論を聞くと、足りない前提を勝手に補い、断定し、ハルシネーションも起きやすい。
  • 代わりに「結論を左右するファクター(考慮要素)を挙げて」と聞く。論点の洗い出しはAIの得意分野。
  • ファクターへの当てはめと最終判断は人間(弁護士)が行う。これでAIの限界を回避できる。
  • 精度を上げる追加質問は2つ。①「さらに確認すべき事実は?」 ②「各ファクターの根拠は?」
  • ただし万能ではない。ファクターの網羅性・正しさを判断できる専門知識が最後の安全網になる。

なぜAIに「結論」を聞くと外すのか

前回の検証で見えたAIの本質的な限界は、3つに整理できます。①自社の具体的な事実を知らない ②回答に責任を負えない ③自分の答えの正しさを自分で検証できない。この3つを抱えたAIに「結論」を求めると、何が起きるでしょうか。

「前提を補って断定する」AIの癖

AIは、足りない事実を自分から問い返すよりも、もっともらしい前提を勝手に補って断定する傾向があります。「おそらく継続的取引でしょう」「資本金は中小企業の典型例で考えます」といった具合に、こちらが与えていない前提を埋めて、堂々と結論を出してしまうのです。

さらに、その結論を補強しようとして存在しない判例(ハルシネーション)まで添えてくることもあります。「結論を聞く」という質問の形そのものが、AIの最も危ない部分を引き出してしまうのです。

正しい質問術:「結論」ではなく「ファクター」を聞く

そこで私は、質問の形を根本から変えています。AIに最終的な答えを出させるのではなく、「その結論を導くために考慮すべき要素(ファクター)を、漏れなく挙げてほしい」と頼むのです。

同じ事案でも、聞き方を変えるだけで、AIの役割と回答の安全性はまるで違ってきます。

「悪い質問」と「良い質問」を比べてみる

悪い質問(結論を求める)良い質問(ファクターを求める)
「この事情で、▲▲はどうなりますか?」「この事情で、▲▲がどうなるかを結論づけるファクターを挙げてください」
AIが前提を補って断定するAIは判断要素を列挙するにとどまる
当てはめ・判断までAIが肩代わり当てはめ・判断は人間(弁護士)が握る
ハルシネーションが結論に紛れ込む誤りが混じっても要素単位で検証できる
聞き方を変えるだけで、AIに「考える材料」だけを出させ、結論は人間が出す形にできる。

具体例:下請法のケースで聞き比べる

たとえば「取引先への支払代金を減額したいが、問題ないか」という相談を考えます。

悪い質問はこうです──「当社は取引先に継続的に部品の製造を委託しています。代金を5%減額したいのですが、下請法違反になりますか?」。これに対してAIは、資本金区分も減額の理由も確かめないまま「買いたたき・減額の禁止に該当する可能性が高い」と断定しがちです。

良い質問はこうなります──「同じ事情で、その代金減額が下請法上問題になるかどうかを判断するためのファクター(考慮要素)を、漏れなく列挙してください」。するとAIは、〔親事業者・下請事業者の資本金の組み合わせ〕〔取引が製造委託・修理委託などの適用対象か〕〔減額についての下請事業者の同意の有無〕〔下請事業者の責めに帰すべき理由の有無〕〔減額の名目・金額・時期〕といった判断要素のリストを返してきます。

なぜこの違いが決定的なのか

前者では、AIが知らない事実を勝手に埋めて出した「結論」を、私が信じるかどうかを迫られます。

後者では、自分の手元にある具体的事実を、列挙されたファクターに一つずつ当てはめて、自分の責任で結論を出すことができます。AIは「論点チェックリスト」を提供するだけで、判断そのものには踏み込みません。これが、AIの限界を踏まえた安全な分業なのです。

さらに精度を上げる、2つの追加質問

「ファクターを聞く」を土台に、私はさらに2つの質問を重ねています。AIの取りこぼしと、ハルシネーションの混入を二重に防ぐためです。

追加質問1:「さらに確認すべき事実は?」

ファクターを挙げてもらったら、次に「これらを判断するために、私がまだ確認できていない事実は何か」と聞きます。AIの弱点は「足りない前提を勝手に補うこと」でした。この質問はその弱点を逆手に取ります。

AIに、自分が判断に必要としている情報を「不足している事実」として明示させるのです。これにより、依頼者にあと何を聞けばよいか、どんな資料を取り寄せるべきかが明確になります。「聞くべき項目」の洗い出しはAIに任せ、事実を引き出すのは人間、という分業です。

追加質問2:「各ファクターの根拠(条文・裁判例の傾向)は?」

続いて、各ファクターについて「その根拠となる条文や、裁判例の一般的な傾向も併せて示して」と求めます。ここが、ハルシネーションを弾く関門です。

AIが根拠として挙げた条文番号や裁判例の傾向を、弁護士が一次資料(法令データベース・判例)で必ず裏取りする。実在しない判例や誤った条文が混じっていれば、ここで確実に除外できます。AIに根拠を語らせ、その真偽は人間が確かめる──「AIは答えの正しさを自分で検証できない」という限界を、人間の検証で埋める工程です。

この質問術が「正しい」理由

AIが得意なこと(論点の網羅的な洗い出し)だけをAIに任せ、AIが不得意なこと(具体的事実への当てはめ・責任ある判断・正しさの検証)を人間が引き受ける。この役割分担を、質問の形で実現しているのがこの方法です。前回の記事で挙げたAIの3つの限界を、一つひとつ回避する設計になっています。

万能ではない──専門知識が最後の安全網

ただし、正直にお伝えすべき前提があります。この方法も万能ではありません。AIが列挙するファクターは、重要なものが抜け落ちることもあれば、的外れなものが紛れ込むこともあります。

「挙げられた要素が網羅的で、かつ正しいか」を最終的に判断するには、その分野の深い専門知識が必要です。この質問術は専門知識を持つ人が使えば強力な道具になりますが、専門知識のない人が使えば、抜け漏れに気づけないまま安心してしまう危険もはらんでいます。道具が優れていることと、それを安全に使えることは、別の話なのです。

経営者の方が応用するなら

AIは「相談の下準備」に使い、結論は弁護士へ

この考え方は、弁護士でない経営者の方にも応用できます。法的なモヤモヤを抱えたとき、AIに「これは違法ですか?」と結論を聞くのではなく、「この問題の結論を左右する要素は何か」「弁護士に相談するとき、何を伝えればよいか」を聞いてみてください。

そうすれば、相談前に論点と必要な事実を整理でき、限られた相談時間を有効に使えます。AIを「相談の下準備」に使い、結論は必ず弁護士に確認する。これが、経営者にとって最も安全で効率的なAIの使い方です。

はるき法律事務所が実践していること

「ファクター質問術」を組み込んだダブルチェック体制

当事務所では、弁護士のノウハウを搭載した独自AIと弁護士のダブルチェック体制のなかで、まさにこの「ファクターを聞き、根拠を裏取りし、当てはめと判断は弁護士が行う」という使い方を徹底しています。

AIに論点を洗い出させ、人間がそれを検証し、依頼者の具体的な事実に当てはめて、責任を持って結論を出す。AIのスピードと、弁護士の判断力。その両方を組み合わせることで、迅速さと精度を同時に追求しています。質問の仕方ひとつにも、こうした工夫を積み重ねているのが、当事務所の強みです。

よくある質問(FAQ)

Q. AIに法律を質問するとき、どう聞けば精度が上がりますか?
A. 結論そのものではなく「結論を左右するファクター(考慮要素)を挙げてください」と聞くのが有効です。AIには論点の洗い出しだけをさせ、当てはめと最終判断は人間が行うことで、ハルシネーションや当てはめミスを避けられます。

Q. なぜAIに「結論」を聞いてはいけないのですか?
A. AIは自社の事実を完全には知らず、責任を負えず、自分の答えを検証できないからです。結論を求めると、足りない前提を勝手に補って断定し、存在しない判例まで作り出すことがあります。

Q. この質問術は弁護士でなくても使えますか?
A. はい。経営者の方も、相談前の準備として「この問題の結論を左右する要素は何か」をAIに聞いておくと、弁護士に伝えるべき事実が整理できます。ただし最終的な結論はAIではなく弁護士に確認してください。

Q. ファクターを聞けばAIの誤りは完全に防げますか?
A. 完全には防げません。AIが挙げるファクターは抜け落ちたり的外れだったりするため、その網羅性と正しさを判断できる専門知識が安全網として必要です。各ファクターの根拠も挙げさせ、裏取りすることで精度はさらに高まります。

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