この記事の結論
① 2026年1月1日を境に、ルールが変わりました。同日以降に発注した1か月以上の業務委託では、フリーランスとの合意があっても、振込手数料を報酬から差し引けません。
② それ以前の発注分も、安全とは限りません。合意がないまま控除していた場合、または合意した負担を超える額を差し引いていた場合は、従来から違反です。実際に3件の勧告が出ています。
③ 名目を変えても同じです。「事務手数料」「業務委託管理料」「照合明細費用」——公正取引委員会は、これらの名目での控除にも勧告を出しています。
「うちは契約書でフリーランス負担と決めているから大丈夫」——もしそうお考えでしたら、いったん止まってください。
2026年8月、公正取引委員会がフリーランス法違反として勧告を行いました。書面で合意していたにもかかわらず、振込手数料の控除が違反とされた事案です。
ただし、この事案を「合意があっても控除は違反という新ルールが適用された」と読むと、自社のリスク評価を誤ります。ここを正確に分解することが、この記事の目的です。
本記事は2026年8月28日時点の情報に基づく解説です。公正取引委員会が公表する勧告資料、勧告一覧、Q&A等により確認しています。なお、本記事では勧告を受けた事業者の名称等は記載していません。個別事業者の追及ではなく、同種の処理を続けている企業への警鐘として書いているためです。未確認の論点は記事末尾に明記しました。
第1章 2026年8月に何が起きたのか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勧告日 | 2026年(令和8年)8月26日 |
| 違反行為期間 | 2024年(令和6年)11月1日〜2025年(令和7年)11月30日 |
| 対象となったフリーランス | 138名 |
| 差し引かれた額の合計 | 481,031円 |
| 違反の中身 | 手数料負担を書面等で合意していたが、実際に金融機関へ支払う振込手数料を「超える額」を報酬から差し引いた |
| 違反法条 | フリーランス・事業者間取引適正化等法 第5条第1項第2号(報酬の減額の禁止) |
| 勧告の根拠 | 同法第8条第4項 |
読み落としてはいけない3点
違反行為の始期が、法律の施行日そのもの
違反行為期間の始まりは2024年11月1日——フリーランス法の施行日です。施行初日から違反が積み上がっていたことになります。
おそらく、法律が変わっても支払システムの設定が変わらなかったのでしょう。「気づかないまま毎月違反を重ねる」——これがこの類型の怖さです。
書面で合意していたのに、違反とされた
ただしここは正確に読む必要があります。違反とされたのは「合意の存在」ではなく、合意した負担を超える額を差し引いたことです。
違反行為期間は2025年11月30日まで。つまり後述する2026年1月1日の変更が適用される前の期間です。「合意があっても控除は違反」という新しい考え方が適用された事案ではありません。
この区別を誤ると、自社のリスク評価を間違えます。
1件あたり約3,500円でも勧告される
481,031円を138名で割ると、1人あたり約3,486円です。振込手数料ですから、当然そうなります。
金額の多寡は違反の成否と関係しません。「少額だから」という感覚が、この分野では最も危険です。むしろ少額だからこそ、長期間・多人数にわたって放置されやすいという構造があります。
第2章 第5条第1項第2号は何を禁じているのか
特定業務委託事業者が、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を減ずることを禁じる規定です。
第5条第1項は、1か月以上の期間行う業務委託について、次の5つを禁じています。
| 号 | 禁止行為 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1号 | 受領拒否 | 責めに帰すべき事由がないのに給付の受領を拒むこと |
| 第2号 | 報酬の減額 | 責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずること |
| 第3号 | 返品 | 責めに帰すべき事由がないのに、給付を受領した後に物を引き取らせること |
| 第4号 | 買いたたき | 著しく低い報酬の額を不当に定めること |
| 第5号 | 購入・利用強制 | 正当な理由なく、指定する物を強制して購入させ、役務を強制して利用させること |
第2号の要件は3つ
特定業務委託事業者であること
従業員を使用する個人事業主、または2人以上の役員がいるか従業員を使用する法人が該当します。
相手方の特定受託事業者は、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人です。法人化していても、一人で事業を営んでいれば該当します。「株式会社と取引しているから対象外」ではありません。
なお「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。短期・短時間の一時的な雇用は含まれません。
特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないこと
「責めに帰すべき事由」とは、納品物に契約不適合がある、納期に遅れたなど、報酬を減らすことに正当な理由があると評価できるフリーランス側の落ち度を指します。
振込手数料は、これと何の関係もありません。したがって、この要件は常に満たされます。
業務委託時に定めた報酬の額を減ずること
ここが実務上いちばん怖いところです。
フリーランス法第3条の明示義務により、発注時に報酬の額を書面等で明示しているはずです。ということは、その明示額と実際の振込額を突き合わせるだけで、減額の有無が機械的に判定できます。
「意図があったか」「悪質か」を論じる余地がありません。争点になりにくく、証拠も自社のシステムに残っている——これがこの類型の性質です。
「最初から手数料を引いた額を報酬にすればよい」は成り立ちません
減額を避けるために、あらかじめ手数料相当額を差し引いた額を報酬として設定する——という発想が出てきます。しかし、報酬額の設定方法そのものが第4号の検討対象になりうる点に注意が必要です。
第4号は「同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること」と定義されています。
公正取引委員会のQ&A(問75)は、報酬の算定方法を変更する場面について、引下げ幅によっては買いたたきとして問題となるおそれがあるとしています。つまり、実質的にみれば買いたたきに該当するとの評価を受ける可能性があるということです。
「うちは単発発注だから対象外」——これが一番危ない
第5条の対象は「1か月以上の期間行う業務委託」です。ここだけを読んで「当社は都度発注だから関係ない」と整理してしまう企業があります。
ここが最大の落とし穴です。公正取引委員会のQ&Aは、契約の更新により継続して行うこととなる業務委託は通算して判断するという考え方を示しています。
| 判定要素 | 内容 |
|---|---|
| 当事者の同一性 | 前後の業務委託に係る契約の当事者が同一であること |
| 内容の同一性 | 給付または役務の提供の内容が、少なくとも一定程度の同一性を有すること |
| 空白期間 | 前の契約が終了した日の翌日から次の契約を締結した日の前日までの期間。この空白が1か月未満であれば通算される |
つまり、同じライターに毎月原稿を頼んでいる。同じ配送員に毎週依頼している。——1回ごとの契約は短くても、実質的に継続していれば通算されます。
なお、第3条の明示義務には期間の限定がありません
「1か月以上」という限定がかかるのは第5条の禁止行為です。
第3条の取引条件の明示義務は、期間を問わず適用されます。単発の1回きりの委託でも、給付の内容・報酬の額・支払期日等を書面または電磁的方法で明示しなければなりません。
実際、公表されている勧告の多くは第3条第1項違反と第4条第5項違反(期日における報酬支払義務)で構成されています。振込手数料以前に、そもそも発注書を出していない、支払期日を定めていない——という企業が相当数あるということです。
第3章 なぜ振込手数料が「報酬の減額」なのか
理屈は単純です。報酬を振り込む際の手数料は、発注事業者が「振込」という支払方法を選んだことに伴って、発注事業者側に生じる費用だからです。
公正取引委員会・厚生労働省の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日、改正:令和7年10月1日)は、報酬の減額に該当する具体例として、これを明記しています。
報酬を特定受託事業者の金融機関口座へ振り込む際の手数料を特定受託事業者に負担させ、報酬の額から差し引くこと。
公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」より公正取引委員会のQ&Aは、2か所でこれを扱っています。
| 設問 | 内容 |
|---|---|
| 問30 (第2条第7項・報酬) | 「報酬は、現金以外でも支払うことができますか」という問いへの回答の中で、金融機関口座へ振り込む方法を採る場合、特定受託事業者との合意の有無に関わらず、振込手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額として問題となると明記 |
| 問77 (第5条第1項・禁止行為) | 「特定受託事業者の口座に報酬を振り込む際、振込手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額に該当しますか」という問いを正面から立てている |
2026年1月1日に何が変わったのか
ここが本記事の核心です。公正取引委員会は、2026年8月の勧告資料の注記で、適用時期を明示しています。
令和7年10月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)が改正されたことにより、令和8年1月1日以降になされた業務委託(1か月以上行うものに限る。)については、特定受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額に該当することとなった。
公正取引委員会 2026年8月26日付 勧告公表資料の注記より「考え方」の改正日は2025年10月1日、適用開始は2026年1月1日。約3か月の準備期間を置いて周知したうえで、2026年1月1日発注分から適用する——という整理です。
同じ日に、下請法も変わっています
2026年1月1日、下請法が取適法(中小受託取引適正化法)に改称・改正されました。公正取引委員会のリーフレットは、同日以降に発注した取適法の適用対象取引について、こう述べています。
「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは違反になります(「減額」に該当)。」
つまりフリーランス法と取適法で、同日から足並みが揃いました。「フリーランスだけの話」ではありません。下請取引全体で、振込手数料の控除は終わったと考えるべきです。
第4章 自社のリスクを3つの層に分ける
ここが実務です。層を分けずに考えると、どこまで遡って直すべきかの判断がつかなくなります。
| 層 | 発注時期 | 状況 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 2026年1月1日以降 | 控除している(合意の有無を問わない) | 違反。直ちに停止 |
| 第2層 | 2025年12月31日以前 | 合意なしで控除していた | 違反(従来から) |
| 合意あり、実費を超える額を控除 | 違反(従来から) | ||
| 合意あり、実費の範囲内 | 当時の取扱い上は問題とされていなかった | ||
| 第3層 | — | 契約書・発注書の雛形、支払システムの設定 | 放置すると再発する |
実際の勧告事例は、すべて「第2層」で出ています
ここは重要なので、事例の構造を並べます。振込手数料に関する勧告は、公表されているだけで3件あります。
| 勧告時期 | 合意の有無 | 違反の中身 |
|---|---|---|
| 2026年3月 | 合意なし | 67名の報酬額から手数料を差し引いた |
| 2026年6月 | 合意なし | 36名の報酬額から手数料として計55,770円を差し引いた |
| 2026年8月 | 合意あり | 138名の報酬額から、実費を超える額計481,031円を差し引いた |
この事実から何が読めるか
公正取引委員会は、新ルールを待たずに、従来の枠組みで摘発を進めてきたということです。
つまり「2026年1月1日から気をつければよい」ではありません。それ以前の発注分についても、合意の不存在や実費超過という切り口で、すでに現実に勧告が出ています。
そして今後は、2026年1月1日以降の発注分について「合意があっても違反」という類型が加わります。網が一段広がる、という理解が正確です。
「一律440円」が危ない理由
第2層で最も見落とされやすいのが、固定額での控除です。
「振込手数料として一律440円」と決めていた場合、次のような取引が混在していた可能性があります。
- 同一銀行あての振込(手数料が安い、または無料)
- ネットバンキング利用(窓口より安い)
- 月内一定回数無料の特典が適用された振込
- 振込金額が3万円未満で、手数料区分が下がっていた取引
これらの取引では、実際の手数料が440円を下回っています。その差額は、まさに2026年8月の勧告事案と同じ「実費を超える額の控除」です。
固定額での控除を行っていた企業は、振込実績と控除額の突合が必要になります。
第5章 名目を変えても同じです
「振込手数料」という名目を避ければよい、という発想も出てきます。これも通用しません。
2026年に公表された勧告のなかには、次のような控除が報酬の減額とされたものがあります。
| 名目 | 金額 |
|---|---|
| 「コンプライアンス対応費用調整額」 | 148名の報酬額から計4,463,380円 |
| 報酬の額に11分の1を乗じた額 (消費税相当額とみられますが、公表資料に説明はありません) | 29名の報酬額から計1,055,754円 |
| 「事務手数料」「業務委託管理料」「照合明細費用」 | 17名の報酬額から計2,472,995円 |
2番目の類型は、報酬の額に11分の1を乗じて差し引くというものです。公表資料に名目の説明はありませんが、税率10%の内税相当額と読むのが自然でしょう。免税事業者への支払いをめぐって今なお実務で見かける処理です。計算方法まで公表資料に記載されている点は、示唆的だと思います。
現場の「端数調整」も要注意です
公正取引委員会のQ&A(問77)は、報酬の額を複数の計算式から成る算定方法で明示している場合に、それぞれの計算過程で出た端数を切り捨て、切り捨てられた端数の合計が1円を超えるときは問題となるとしています。
1円です。「切りのいい数字にしておいた」という現場判断が、そのまま報酬の減額になりえます。
また問75は、すでに従来の算定方法で報酬額を定めた業務委託について、変更後の算定方法を当てはめて引き下げた額しか支払わないことは報酬の減額として問題となるとしています。
他方、算定方法を先に変更し、その後に行う業務委託の報酬が従来より低くなること自体は報酬の減額に該当しないとされています(ただし引下げ幅によっては買いたたきのおそれ)。「いつ報酬額が定まったか」が分かれ目です。
第6章 執行は明確に加速しています
ここは数字で見るのが早いと思います。
| 年度 | 勧告件数 | 期間 |
|---|---|---|
| 令和7年度 | 10件 | 1年間(2025年4月〜2026年3月) |
| 令和8年度 | 9件 | 約5か月(2026年4月〜8月26日時点) |
1年で10件だったものが、5か月で9件です。単純計算で、ペースは倍以上になっています。
そして勧告を受けた事業者の顔ぶれを見ると、出版、放送、音楽教室、電力、通信社、家電小売、結婚相談、資料作成の受託、運送・設置工事——業種は完全にばらけています。「うちの業界は関係ない」という業種は、もはや存在しないと考えるべきでしょう。
企業規模も同様です。誰もが知る大企業から、資本金1億円未満の企業まで含まれています。
違反類型の内訳も見ておいてください
公表されている勧告を類型別に見ると、傾向がはっきりします。
| 違反類型 | 傾向 |
|---|---|
| 第3条第1項 (取引条件の明示義務) | 最も多い。ほとんどの事案に含まれる。発注書を出していない、記載事項が足りない |
| 第4条第5項 (期日における報酬支払義務) | 次に多い。そもそも支払期日を定めていないという事案が目立つ |
| 第5条第1項第2号 (報酬の減額) | 振込手数料のほか、事務手数料・管理料・消費税相当額の控除 |
| 第5条第1項第4号 (買いたたき) | コスト上昇分の協議を行わず据え置き、体験レッスンの単価引下げ等 |
| 第5条第2項第1号 (不当な経済上の利益の提供要請) | 無償での体験レッスンの実施など |
実際に数えると、19件のうち第3条第1項違反が17件、第4条第5項違反が16件です。ほぼすべての事案が、この2つを含んでいます。報酬の減額(第5条第1項第2号)は5件でした。
この一覧から読み取れることが1つあります。振込手数料の控除だけを直しても足りない、ということです。
振込手数料で勧告を受けた事案の多くは、同時に第3条や第4条の違反も指摘されています。控除を止めたところで、発注書の不備や支払期日の未設定が残っていれば、調査に入られた時点で同じことになります。
第7章 違反したら、どこまで進むのか
最後に、履行確保の仕組みを条文で整理しておきます。「勧告で終わり」ではありません。
| 段階 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 指導・助言 | 第22条 | 公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣が、業務委託事業者に対して行う |
| 報告・立入検査 | 第11条 | 事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査できる |
| 勧告 | 第8条 | 第3条違反は第1項、第4条第5項違反は第2項、第5条第1項第1号(受領拒否)は第3項、報酬の減額を含むそれ以外は第4項 |
| 命令 | 第9条第1項 | 勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかったとき |
| 命令の公表 | 第9条第2項 | 命令をした場合、その旨を公表することができる |
| 罰則 | 第24条 | 命令違反、報告拒否・虚偽報告・検査拒否等は50万円以下の罰金 |
| 両罰規定 | 第25条 | 従業者等が違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人にも同額の刑 |
「公表」の位置づけを正確に
本記事が扱う取引の適正化(第2章)について、条文が公表を定めているのは第9条第2項——命令をした場合です。勧告そのものの公表を定めた規定はありません。
ではなぜ勧告が公表されているのかというと、公正取引委員会が運用として、報道発表および勧告一覧のかたちで公表しているからです。
実務的には、この区別にあまり意味はありません。現に、勧告の段階で商号・本店所在地・代表者名・違反内容・金額まで公表されています。「命令まで行かなければ社名は出ない」という理解は、事実に反します。
なお、就業環境の整備(第3章)については厚生労働大臣が所管し、第19条に別途の命令・公表の規定が置かれています。本記事の射程外のため立ち入りません。
フリーランス側からの申出という経路(第6条)
忘れられがちですが、調査の端緒はここから始まります。
第6条第1項は、業務委託を受ける特定受託事業者は、違反する事実がある場合に、公正取引委員会または中小企業庁長官に対して申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができると定めています。そして第2項により、申出があったときは必要な調査を行わなければなりません。
さらに第3項です。
業務委託事業者は、特定受託事業者が第一項の規定による申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
フリーランス・事業者間取引適正化等法 第6条第3項申し出たフリーランスへの報復は、それ自体が独立した違反です。「あの人が通報したらしい」という理由で発注を絞る——これは、元の違反とは別に問題になります。現場の感情的な反応が、事態を悪化させる典型的な経路です。
今週やるべきこと
| 順序 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 1 | 2026年1月1日以降の発注分について、支払明細で振込手数料が控除されていないか確認する。控除があれば直ちに停止 | 経理 |
| 2 | 支払システムのマスタ・支払条件テンプレートを確認し、控除が自動適用されていないか点検する | 経理・システム |
| 3 | 過去分で固定額での控除を行っていた場合、実際の振込手数料と突き合わせ、実費超過がなかったか検証する | 経理 |
| 4 | 業務委託契約書・発注書の雛形から、振込手数料をフリーランス負担とする条項を削除する | 法務 |
| 5 | 取引先のうち「特定受託事業者」に該当する相手方を洗い出す(従業員を使用しない法人も含む) | 購買・法務 |
| 6 | 経理・購買・事業部門に報酬減額禁止を周知する(現場の「端数調整」「値引き」も減額に当たりうる) | 法務 |
| 7 | 取適法(旧下請法)の対象取引についても、同じ点検を行う | 経理・法務 |
自発的な申出という選択肢もあります
公正取引委員会は、フリーランス法違反行為を自発的に申し出た業務委託事業者の取扱いについて公表しています。すでに違反状態が判明している場合、この制度の活用を検討する余地があります。
ただし適用の要件と効果は個別に検討が必要です。自己判断で動く前に、専門家にご相談ください。
本稿執筆時点で未確認の論点
- 「令和8年1月1日以降に発注する取引から」という適用時期は、公正取引委員会の勧告公表資料の注記で確認しました。ただし「考え方」本文には、この適用時期そのものの記載は見当たりません。なお「考え方」には、あらかじめ合意があったとしても、責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずる場合には本法違反となる旨の記述が置かれています。
- 2026年1月1日以降の発注分について、「合意があっても控除は違反」とする類型を適用した勧告事例は、本稿執筆時点で確認できていません。今後出てくるものと思われます。
- 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の改定内容は確認できていません。
- 勧告件数は公表されている一覧に基づく集計であり、指導にとどまった事案は含まれていません。実際の執行件数はこれより多いと考えられます。
おわりに
この論点の厄介なところは、悪意なく違反が積み上がる構造になっている点だと思います。
契約書に「振込手数料は受託者負担とする」と書く。支払システムにその設定を入れる。あとは毎月、自動的に処理される。誰も悪いことをしているつもりがないまま、施行日から1年以上にわたって違反が続く。2026年8月の事案は、まさにその形でした。
そして金額が小さいことが、発見を遅らせます。1人あたり数百円の話ですから、誰も問題視しません。しかし人数と月数を掛ければ、数十万円から数百万円になります。そして違反の成否に金額は関係ありません。
逆に言えば、点検は難しくありません。発注時に明示した報酬額と、実際の振込額を突き合わせる。それだけです。第3条の明示義務があるおかげで、比較すべき数字は必ず記録に残っています。行政が機械的に判定できるということは、自社でも機械的に点検できるということです。
当事務所は、事業スキームから法的リスクを洗い出すことを方針としています。契約書の条項を直すだけでなく、支払システムの設定、現場の運用、そして過去分の是正の要否まで含めて、全体で整理することをお勧めしています。すでに控除を続けてしまっている場合の対応もご相談ください。
一次情報
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧」
https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/index.html - 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日、改正:令和7年10月1日)
https://www.jftc.go.jp/file/fl_jftcmhlwguidelines.pdf - 公正取引委員会「フリーランス法 Q&A」
https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html - 公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイント ー代金編ー」(令和7年10月)
https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet2.pdf - 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法違反行為を自発的に申し出た業務委託事業者の取扱いについて」
https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html - 公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html - e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025