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【弁護士監修】10月1日カスハラ義務化──最低限やること、就業規則の条文例つき

【弁護士監修】10月1日カスハラ義務化──最低限やること、就業規則の条文例つき

【2026年9月27日 追記】施行まで、あと4日です

本記事は2026年8月21日に公開したものです。公開時は「あと6週間」でしたが、施行日は目前になりました。条文構造・10の措置・条文例は、そのままお使いいただけます。まだ着手していない場合は、末尾の「明日から何をすればよいか」から読んでください。1〜3だけなら1日で終わります。

あわせて、2本を公開しました。
・対策を怠ると、どうなるのか──行政からは過料が来ません。来るのは、従業員からです。労災認定基準は、会社が適切な対応をしなかったことを、心理的負荷を「強」に引き上げる要件としています。そこから安全配慮義務違反の請求につながる構造、過失相殺がどこまで通るか、慰謝料が労災給付で減らない理由までを、判例で追いました。
・同じ10月1日に、パート有期法の改正がもう一本来ます──省令1本・告示2本。労働条件通知書の明示義務違反には、10万円以下の過料があります。カスハラの準備で人事の手が埋まっているうちに、こちらが後回しになりがちです。

なお本記事の条番号は、公開当時は施行前でe-Gov法令検索に反映されていなかったため、厚生労働省の公表資料により確認していました。現在は改正後条文が公開されており、記載内容を改めて確認しました。

この記事の結論

① 2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が全事業主の義務になります。労働者が1人でもいれば対象で、中小企業の猶予期間はありません。

② やるべきことは「方針の明確化と周知」「相談窓口」「事後対応」を中心とする10の措置です。指針は2026年2月26日に公表済みで、内容はすでに確定しています。

③ 就業規則の直し方が、パワハラ・セクハラとは違います。行為者は社外の人間なので、懲戒規定では対応できません。必要なのは、労働者を守る方針・報告ルール・相談窓口・不利益取扱いの禁止です。

施行まで、本記事公開時点(2026年8月21日)で約6週間でした。まだ何も着手していない企業にとっては、実質的にそこが最終ラインだと思います。

この記事では、法律の解説にとどまらず、就業規則とカスハラ対応規程に実際に入れる条文例と、施行までの工程表までお示しします。

そして、措置を講じなかった場合に何が起きるのかは、別記事に分けました。本記事は「何をするか」、あちらは「しなかったらどうなるか」です。

本記事は2026年8月21日時点の情報に基づく解説です。厚生労働省の公表資料および指針により確認しています。条文例はあくまで一般的なひな型であり、実際の導入にあたっては自社の実情に合わせた調整が必要です。未確認の論点は記事末尾に明記しました。

第1章 何が義務になるのか(事実の整理)

根拠となる法律と経緯

項目内容
改正法の名称労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律
(令和7年法律第63号)
成立・公布2025年6月4日 参議院本会議で可決・成立
2025年6月11日 公布
指針の公表2026年2月26日(令和8年厚生労働省告示第51号)
「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
施行日2026年10月1日
対象すべての事業主(労働者を1人でも雇用していれば対象)
猶予措置なし
パワハラ防止措置の義務化では中小企業に約2年の猶予がありましたが、今回は置かれていません。

条文の構造

改正後の労働施策総合推進法では、次のように整理されています。

条項内容性質
第33条第1項カスハラについて、事業主の雇用管理上の措置義務義務
第33条第2項労働者がカスハラの相談を行ったこと、相談への対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止義務
第33条第3項他の事業主から必要な協力を求められた場合に応じる努力義務
第33条第4項厚生労働大臣が指針を定める—
第34条第2項労働者の関心と理解を深め、他社の労働者への言動に注意を払うよう研修等の配慮を行う努力義務
第34条第4項労働者が事業主の措置に協力するよう努める努力義務
第34条第5項顧客等が、労働者の就業環境を害することのないよう必要な注意を払う努力義務
第37条都道府県労働局長が、紛争調整委員会に調停を行わせる(調停への委任)—
義務は第33条第1項・第2項の2つ。残りは努力義務ですが、第34条第2項の研修配慮は実務上セットで対応することになります。

違反したらどうなるか

措置義務に違反したこと自体への罰則はありません。改正後の罰則は第49条から第51条までで、第33条の措置義務違反を対象とする規定は置かれていません。ただし、事業主は報告の請求(第45条第1項)、助言・指導・勧告(第42条第1項)の対象となり、勧告に従わない場合には第42条第2項により企業名の公表がありえます。

一点だけ、過料があります。第45条第1項は、厚生労働大臣が第33条第1項・第2項の規定の施行に関し必要な事項について事業主に報告を求めることができると定め、第51条は「第四十五条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。」としています。過料は刑罰ではなく行政上の秩序罰ですが、措置を講じないこと自体は罰せられないのに、「行政から聞かれて答えない」ことには金銭的な不利益があるという構造です。

もっとも、ここは評価が分かれるところですが、私は行政の関与よりも民事のリスクのほうが実務上は重いと考えています。カスハラで従業員が精神疾患を発症した場合、「法律上の措置義務を果たしていなかった」という事実は、安全配慮義務違反の判断において不利に働きうるからです。

労災認定の場面では、それがもっと直接的です。精神障害の認定基準の別表1項目27は、心理的負荷が「強」になる例として、心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合を挙げています。顧客の行為が「中」でも、会社が放置すれば「強」になります。行政が罰しないかわりに、労災の入口が開く設計です。

罰則がないから軽い、という話ではありません。この先に何が起きるのかは、別記事で判例を追いました。安全配慮義務違反が認められた事案と免責された事案の違い、過失相殺がどこまで通るか、慰謝料が労災給付で減らない理由までを扱っています。

第2章 何がカスハラに当たるのか

3つの要素をすべて満たすもの

職場におけるカスタマーハラスメントの定義

職場において行われる
① 顧客等の言動であって、
② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの

——①〜③の要素をすべて満たすものをいいます。電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

「顧客等」の範囲が、想像より広い点に注意が必要です。顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者が含まれ、今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者まで及びます。

ここから導かれる実務上の含意は明確です。BtoB企業も対象です。取引先の担当者からの言動も「顧客等の言動」に当たりえます。「うちは消費者相手の商売ではないから関係ない」という整理は成り立ちません。

指針が挙げる典型例

区分類型例
言動の内容が
許容範囲を超える
要求に理由がない/商品・サービスと無関係な要求性的な要求、労働者のプライバシーに関わる要求
契約等により想定しているサービスを著しく超える要求契約内容を著しく超えたサービスの提供の要求
対応が著しく困難/不可能な要求契約金額の著しい減額の要求
不当な損害賠償要求商品やサービスの内容と無関係な損害賠償要求
手段や態様が
許容範囲を超える
身体的な攻撃殴る、蹴る、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける
精神的な攻撃SNSへの悪評投稿をほのめかして脅す、人格否定、土下座の強要、盗撮・無断撮影、性的指向等の暴露や開示強要
威圧的な言動大声で威圧する、反社会的な言動
継続的、執拗な言動同じ質問の執拗な繰り返し、話のすり替え、揚げ足取り、同内容のメールの執拗な送りつけ
拘束的な言動長時間の居座り、長時間の電話による拘束、不退去、監禁
指針の例は限定列挙ではありません。ここに載っていなくても該当しうる点に留意が必要です。

逆に、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、正当な申入れであってカスハラには当たりません。ここを取り違えて正当なクレームまで門前払いすると、別のトラブルになります。

第3章 講じなければならない10の措置

指針が「講じなければならない」としているのは、次の10項目です。

区分№措置の内容
方針の明確化と
周知・啓発
①カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
②カスハラの内容およびあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
相談体制の整備③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
④相談窓口担当者が適切に対応できるようにする(該当性の判断が微妙な場合も広く対応)
事後の迅速かつ
適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥被害者に対する配慮のための措置を行う
⑦再発防止に向けた措置を講ずる(事実が確認できなかった場合も必要に応じて同様)
抑止のための措置⑧特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する
併せて講ずべき措置⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
⑩相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
⑧はカスハラに特有の項目です。他のハラスメント対策にはない「抑止措置」が求められています。

⑧が特徴的な理由

パワハラやセクハラでは、行為者は社内の人間なので「行為者に対する措置を適正に行う」という項目があります。しかしカスハラの行為者は社外です。懲戒処分はできません。

そこで代わりに置かれたのが、この抑止措置です。指針は具体例として、警察への通報、警告文の発出、法令の制限内での商品販売・サービス提供の拒否、店舗・施設への出入禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています。

「どこまでやったら取引を断ってよいか」を、事前に決めておけということです。

第4章 就業規則をどこまで直すか(条文例)

ここが本記事の中心です。そして、最も誤解が多いところでもあります。

まず、懲戒規定では対応できません

パワハラ・セクハラ対策では、就業規則の懲戒事由に「ハラスメント行為」を追加するのが定石でした。しかしカスハラの行為者は顧客や取引先であって、自社の労働者ではありません。就業規則の効力は及ばず、懲戒権も行使できません。

ではどうするか。就業規則に定めるのは、行為者への制裁ではなく、自社の労働者側のルールです。

 パワハラ・セクハラカスハラ
行為者自社の労働者社外の顧客・取引先等
就業規則の主眼禁止行為の明示と懲戒労働者の保護・報告ルール・相談窓口
行為者への対応懲戒処分取引停止、出入禁止、警察通報、法的措置
定める場所就業規則+ハラスメント防止規程就業規則+カスハラ対応規程(別規程が実務的)
同じ「ハラスメント対策」でも、規程の設計思想がまったく異なります。

(1) 就業規則本体に入れる条文例

就業規則には、骨格だけを置き、詳細は別規程に委任するのが実務的です。就業規則の変更は労働基準監督署への届出が必要になるため、頻繁に手を入れる部分は別規程にしておくほうが運用しやすくなります。

条文例|就業規則

第◯条(カスタマーハラスメントへの対応)

1 会社は、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他会社の行う事業に関係を有する者(以下「顧客等」という。)の言動であって、従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより従業員の就業環境が害されること(以下「カスタマーハラスメント」という。)に対し、毅然とした態度で対応し、従業員を保護する。

2 従業員は、カスタマーハラスメントを受け、又はこれを認識したときは、速やかに直属の上長又は別途定める相談窓口に報告するものとする。

3 従業員は、カスタマーハラスメントに該当する事案について、当該事案にどのように対応するかを単独で判断することを要しない。会社は、従業員を一人で対応させないための措置その他必要な措置を講ずる。

4 会社は、従業員がカスタマーハラスメントに関する相談を行ったこと、事実関係の確認その他会社の対応に協力して事実を述べたこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと、又は調停に係る出頭の求めに応じたことを理由として、当該従業員に対し、解雇その他不利益な取扱いをしない。

5 カスタマーハラスメントへの対応に関し必要な事項は、別途定めるカスタマーハラスメント対応規程による。

第4項が、法第33条第2項に対応する必須の条項です。ここは指針でも「就業規則等の文書において規定し、労働者に周知・啓発をする」ことが対応例として挙げられており、落とすと措置義務の履行に穴が空きます。

なお、指針が保護の対象として挙げている行為は、①相談したこと ②事実関係の確認等に協力したこと ③都道府県労働局に相談・紛争解決の援助の求め・調停の申請を行ったこと ④調停の出頭の求めに応じたことの4つです。条文例はこれをすべて拾う形にしています。「相談したこと」だけを書いて済ませているひな型が散見されますので、ご注意ください。

第3項も実務上重要です。「これはカスハラに当たるのか」を現場の従業員に判断させないという宣言であり、これがないと、従業員は結局ひとりで抱え込みます。

(2) カスタマーハラスメント対応規程の骨子

別規程には、次の項目を置きます。①〜⑩の措置と対応させて設計するのが確実です。

条内容対応する措置
第1条目的—
第2条定義(カスハラ・顧客等・該当例)②
第3条会社の方針(毅然対応・従業員保護)①
第4条現場での対応手順(上長への報告、複数対応、録音・録画、退店要請、通話終了)②
第5条相談窓口(設置・連絡先・担当者)③④
第6条事実関係の確認(確認手順、記録の作成)⑤
第7条被害者への配慮(担当変更、配置転換、産業医面談、メンタルヘルス対応)⑥
第8条再発防止(記録の共有、業務手順・接客の見直し)⑦
第9条悪質事案への対処(警告文、取引停止、出入禁止、警察通報、法的措置の判断基準と決裁権者)⑧
第10条プライバシーの保護⑨
第11条不利益取扱いの禁止⑩
第12条教育・研修法34条2項
措置の番号と条文を対応させておくと、後日の点検や労働局への説明が容易になります。

(3) 悪質事案への対処条項(⑧)の条文例

最も設計が難しいのがここです。「誰が、どの段階で、何を判断するか」を書いておかないと、現場は動けません。

条文例|カスタマーハラスメント対応規程

第9条(悪質な事案への対処)

1 会社は、次の各号のいずれかに該当する場合、当該事案を悪質な事案として取り扱う。

(1) 暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、威力業務妨害その他の犯罪に該当し得る言動があったとき
(2) 会社が説明を尽くしたにもかかわらず、同一内容の要求が繰り返されるとき
(3) 長時間にわたる拘束、不退去又は居座りがあったとき
(4) 従業員個人に対する攻撃、又はSNS等への投稿の示唆があったとき
(5) その他前各号に準ずるとき

2 前項の該当性は、◯◯部長が判断する。ただし、犯罪に該当し得る言動があった場合、現場責任者は判断を待たず直ちに警察へ通報することができる。

3 会社は、悪質な事案と判断したときは、事案の内容に応じ、次の措置を講ずることができる。

(1) 行為者に対する警告文の送付
(2) 対応窓口の一本化(以後の連絡先を法務部門等に限定する)
(3) 法令の制限内における商品の販売又はサービスの提供の拒否
(4) 店舗、事業所その他の施設への出入りの禁止
(5) 警察への通報、告訴又は被害届の提出
(6) 仮処分の申立てその他の法的措置

4 前項第3号から第6号までの措置については、あらかじめ顧問弁護士に相談のうえ実施するものとする。

第2項但書を入れる理由

暴力が起きている現場で「部長の判断を待つ」運用は機能しません。犯罪に該当しうる言動については、現場の判断で通報できると書いておくことが、規程が存在するということと併せて、従業員を守ることになります。

逆に、取引停止や出入禁止は、誤って正当なクレームに適用すると、こちらが債務不履行や不法行為を問われかねません。だからこそ第4項で弁護士への相談を挟んでいます。

(4) 変更手続を忘れずに

就業規則を変更する場合、労働者代表からの意見聴取と、所轄の労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条、第90条)。あわせて周知も要件です(同法第106条)。

常時10人以上の労働者を使用する事業場が対象ですが、それ未満の規模でも、規程を作って周知しておくこと自体は措置義務の履行として意味があります。

第5章 施行までの工程表

ゼロから始める前提で、現実的な順序を組みました。完璧を目指すと間に合いません。10月1日時点で「措置を講じている」と言える状態を作ることを優先します。

残り期間が短い場合は、圧縮できます。下の工程表は6週間を前提にしていますが、第1週(方針1枚)→第4週(既存の相談窓口にカスハラを追加)→第2週の就業規則の不利益取扱い禁止条項、の3つだけなら1日で終わります。
先に「方針・窓口・不利益取扱いの禁止」を押さえ、規程本体と研修は10月以降に回す——これが、いま着手する場合の順序です。措置を1つも講じていない状態と、3つ講じて残りを進めている状態は、後から振り返ったときに大きく違います。
第1週

現状把握と方針の決定

・過去1年のクレーム対応事例を、部門ごとに5件ずつでよいので集める
・どの部門が最前線か(店舗、コールセンター、営業、施設運営など、業態に合わせて)を特定する
・経営サイドとしての方針を1枚にまとめる(毅然と対応する/従業員を守る/一人で対応させない)

※この1枚が措置①になります。まずこれだけでも作ってください。

第2〜3週

規程の整備

・就業規則に本記事の条文例を追加(特に不利益取扱いの禁止)
・カスタマーハラスメント対応規程を作成
・悪質事案の判断基準と決裁権者を決める(ここが一番議論になります。早めに着手を)
・労働者代表の意見聴取

第4週

相談窓口の設置

・既存のハラスメント相談窓口にカスハラを追加するのが最短です。新設は不要
・担当者を明示し、連絡方法(メール・電話・フォーム)を決める
・対応マニュアルを作る(受付票の様式、記録項目、関係部門への連携ルート)
・プライバシー保護の取扱いを明記(措置⑨)

第5週

周知と研修

・全従業員へ方針と規程を周知(社内ポータル掲載+メール送付。周知した記録を残す)
・最前線の部門と管理監督者に研修を実施(30分でも構いません)
・相談窓口担当者への研修(措置④)

※「周知した」という証跡が後で効きます。配信ログやアンケートの回答記録を残してください。

第6週

仕上げと届出

・就業規則を労働基準監督署へ届出
・現場に掲示物やカードを配布(対応手順を手元に置ける形に)
・録音・録画を行う場合、顧客への告知方法を決める(個人情報保護法の遵守が必要です)
・10月1日以降の運用開始

第6章 見落としやすい落とし穴

落とし穴 1

自社が「加害者側」になる場合の備えがない

法第33条第3項は、自社の労働者が他社の労働者にカスハラを行い、その事業主から事実確認等への協力を求められた場合、これに応じる努力義務を定めています。

つまり自社の営業担当や調達担当が、取引先の従業員に対してカスハラ行為者になりうるということです。指針では、望ましい対応として行為者への懲戒処分にも言及されています。

受け身の対策だけを考えていると、ここが抜けます。研修は「守り方」だけでなく「やってはいけないこと」も扱ってください。

落とし穴 2

同じ日に、求職者へのセクハラ対策も義務化される

2026年10月1日には、改正男女雇用機会均等法により、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も事業主の義務になります。

対象は、採用面接、就職説明会、労働者への訪問、インターンシップ、教育実習・看護実習等です。SNS等のオンラインを介したものも含まれます。

カスハラの担当が現場部門、こちらは採用部門——所管が分かれるため、片方だけ準備して安心してしまうケースが起きやすいところです。求職者向けの相談窓口の周知も必要になります。

落とし穴 3

録音・録画を、個人情報保護法の観点で詰めていない

指針は対応例として顧客等とのやり取りの録音・録画を挙げていますが、あわせて「個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う」ことを求めています。

利用目的の特定と通知・公表、保管期間、アクセス権限、削除ルール——ここを決めずに録音だけ始めると、カスハラ対策のつもりが別の法令違反を招きます。店頭掲示や自動音声での告知方法も含めて設計してください。

落とし穴 4

正当なクレームまで遮断してしまう

指針は、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れでありカスハラに当たらないと明記しています。また対策を講じる際には、消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとされています。

「カスハラ扱い」の乱用は、それ自体が新しい紛争の種です。判断基準を規程に落としておく意味は、従業員を守ることと同時に、この振り子が振れすぎないようにすることにもあります。

明日から何をすればよいか

優先順位をつけると、次のとおりです。

順序やること所要
1方針を1枚にまとめ、社内に発信する(毅然と対応する/従業員を守る/一人で対応させない)半日
2既存のハラスメント相談窓口にカスハラを追加し、周知する1時間
3就業規則に不利益取扱いの禁止条項を追加する半日
4カスハラ対応規程を作成する(悪質事案の判断基準と決裁権者を含む)1〜2週間
5最前線部門と管理監督者に研修を実施し、記録を残す1週間
6就業規則を労働基準監督署へ届出する1日
1〜3だけなら1日で終わります。まずここまでを終わらせてから、4以降に取りかかってください。

次に読む

カスハラ対策を怠ると、どうなるのか──行政からは過料が来ません。来るのは、従業員からです

本記事は「何をするか」です。あちらは「しなかったら、どうなるか」です。
・労災認定基準が、会社の不対応を心理的負荷「強」への引上げ要件にしています
・カスハラの労災認定率は約53%。精神障害全体(28.2%)の約2倍です
・4つの措置を講じていたのに、全部「十分でない」とされた事案があります。理由は措置不足ではありません
・過失相殺はほぼ封じられています。「本人の性格」も「通院歴の不申告」も、最高裁が否定しました
・慰謝料は、労災給付では減りません

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本稿執筆時点で未確認の論点

  • 改正後の条文は、公開当時は施行前でe-Gov法令検索に反映されておらず、厚生労働省が公表した法律案本文・要綱・新旧対照条文および指針本文の条文引用により確認していました。2026年9月27日追記時点では改正後条文(施行日2026年10月1日)が公開されており、第33条、第42条、第45条、第49条から第51条までの記載を確認済みです。
  • 労働局による具体的な運用方針(どの程度の不備で助言・指導の対象となるか)は、施行前のため明らかではありません。
  • 企業名公表の運用実績は、当然ながら存在しません。
  • 本記事の条文例は一般的なひな型であり、業種・規模・現場の実情によって必要な調整があります。特に悪質事案の判断基準と決裁権者は、自社の体制に合わせて設計する必要があります。
  • フリーランス(特定受託事業者)への保護の拡大は、改正法附則で検討事項とされており、現時点で措置義務の対象ではありません。

おわりに

カスハラ対策の義務化は、企業に新しい負担を課すものではあります。しかし現場から見れば、これまで担当者個人の忍耐で処理されてきた問題を、会社の責任として引き取るという転換でもあります。

実務で難しいのは、条文を作ることではなく、「どこまでやったら、この客との取引をやめてよいのか」を会社として決めることだと思います。売上が絡むため、現場も管理部門も判断を避けたがる。結果として、基準が空白のまま担当者が矢面に立ち続ける——この構造こそが本当の問題です。

逆に言えば、この線引きを一度決めてしまえば、規程の残りは事務作業です。短い期間で間に合わせるなら、まずそこから議論を始めるのが近道だと考えます。

当事務所では、就業規則・カスハラ対応規程の作成、悪質事案の判断基準の設計、実際に発生した事案への対応(警告文の作成、取引停止の可否判断、法的措置)まで対応しています。「この顧客への対応をどこで打ち切るべきか」という判断は、法律面だけでなく取引の実態や採算も踏まえて決めるべき問題です。その両面からお話しできることが、当事務所の特徴です。

一次情報

初回相談 半額

10月1日、施行。規程の整備は、いまからでも間に合います

就業規則・カスタマーハラスメント対応規程の作成、悪質事案の判断基準の設計、相談窓口の体制づくりまで対応いたします。すでに発生している事案(警告文の作成、取引停止の可否、法的措置)のご相談も承ります。法律面だけでなく、取引の実態と採算まで踏まえてお話しします。初回相談は通常料金の半額でご利用いただけます。すでに従業員が体調を崩している、労災請求や損害賠償請求を受けているという段階のご相談も承ります。

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