リーガルチェックに必要なもの
AIを契約書のリーガルチェックに使用できるようにするためには、当然ながら、AIが法律知識を使用できる状態にあることが必要です。では、AIはどの程度の法律知識を使用できる状況にあるのでしょうか。次の3つのAIで比較してみたいと思います。
- AI①:皆さんが通常使用することができるAI。法律専門AIとしてサブスクリプションで販売されているものではない。
- AI②:皆さんが通常使用することができるAI。法律専門AIとしてサブスクリプションで販売されているものではないが、AI①とは異なるAI。
- AI③:法律専門AIとしてサブスクリプションで販売されているもの。
AIへの質問
2つの質問
これらの3つのAIに、次の2つの質問をしてみます。
【質問1】 株式会社Aが株式会社Bにウェブ制作を依頼することになり、AB間で業務委託契約書を作成しました。資本金は、Aが5000万円で、Bが800万円です。依頼する業務内容については、契約書に「AがBに対して委託する業務内容の具体的内容については、AB間で随時協議の上定めるものとする。」という定めがあります。このような契約書の定めは適法ですか?
【質問2】 株式会社Aは株式会社Bに対して、Aが設計した機械の製造を委託することとなり、AB間で業務委託契約書を作成しました。設計図については、Bは契約前に概要しか見せられておらず、詳細は知りませんでした。契約書では「AはBに対し、本契約締結後速やかに、本件機械の設計図を送付するものとする」と定められています。ところがAの設計は、実はCやDが製造・販売している機械のものと、見た目も機能も全く同じというものでした。この場合、Bの製造が不正競争防止法にいう商品形態模倣行為に該当しない場合を挙げてください。
なぜこの質問か?
では、なぜこの2つの質問なのでしょうか。AIの特性からして、それなりの理由があります。
まずAIは、ローカルAIでウェブ検索ができないようにしている場合を除き、ウェブにアップされている内容を検索できます。
ですが、AIが読めるのはあくまでウェブサイトに書かれている字や図にとどまっていて、ウェブサイト上でクリックすれば見られるPDFなどの別ファイルを読むことはできません。
質問2のねらい──判例知識を検証する
たとえば質問2です。他社が販売している商品を模倣して製造することは不正競争防止法に違反しますが、例外があります。1つは「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」を模倣したときは違反ではない、とされています。機械の性質上その形しか考えられないという場合(冷蔵庫なら四角い箱、など)です。
そのほか保護期間や善意無過失などもありますが、ここで重要なのは、「ありふれた機械だと不正競争防止法でそもそも保護されない」という判例があることです。
その機械がCやDだけでなくいろんな会社が模倣して販売していれば、もはやCやDが独占的に利益を得るべきではない、と裁判所が考えたわけです。
判例は、重要なものやトピックになるものについては、裁判所ホームページで閲覧やダウンロードができます。ところがAIはそれを読みに行くことができません。
ですので、判例の知識は、わざわざAIに勉強させなければなりません。この「勉強させる」ことが、それぞれのAIにできているのか——そこを見たいわけです。
質問1のねらい──新法・取適法の知識を検証する
次にAIは、新しくて正しい知識を持っていないと誤ったリーガルチェックをします。ですので、AIの知識が新しいことが大事になります。ただし、その知識はファクトチェックを行ったうえで確実に正しいものでなければなりません。
たとえば質問1の正確な回答には、中小受託取引適正化法(取適法)という法律の知識が必要です。取適法は下請法の改正法です。
資本金の額によって適用の有無が決まり、取適法では業務の具体的な内容は書面もしくはデータ化しなければならないことになっているので、質問1はそれに沿った回答が必要となります。
取適法は令和8年1月1日から施行されていて、まだ新しい法律です。その新しい知識をAIが持っているかどうか。取適法については最近多数のサイトが情報を掲載しているので、AIがウェブ検索をしていれば情報を得ることはできます。
ただ、私が知る限り、そうしたウェブサイト以外で明確にファクトチェックに使える情報としては、まだ書籍がなく、公正取引委員会が頒布しているガイドラインしかないはずです。
そしてこのガイドラインは公正取引委員会のサイトでダウンロードする形なので、先ほどのとおりAIがウェブ検索しても読めません。ですので、AIに何らかの形でガイドラインの内容を搭載する必要があります。
結果
では、結果はどうだったでしょうか。
<実証編②へ続く>