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【弁護士監修】ダークパターンが特商法に入る──「解約させない設計」を名指しした中間取りまとめ案

【弁護士監修】ダークパターンが特商法に入る──「解約させない設計」を名指しした中間取りまとめ案

申込みは3クリックで終わるのに、解約は電話のみ。しかも受付は平日の昼間だけ。

この設計が、違法行為として規律の対象とする方向で検討されています。

2026年8月24日、消費者庁のデジタル取引・特定商取引法等検討会が第8回会合で「中間取りまとめ(案)」を配布しました。ダークパターン——画面設計そのものによって、消費者が本来しなかったはずの申込み・継続・支払いへ誘導する手法——のうち悪質なものを、特定商取引法(昭和51年法律第57号)の規律対象に取り込む方向が示されています。

この記事では、原文にあたって次の順序で整理します。

  • 中間取りまとめ(案)の構成と、「案」の読み方
  • ダークパターンはどう規律されるのか(5つの類型)
  • 「一般的な消費者」の定義が変わること
  • チャット勧誘に、電話勧誘販売と同じ規律がかかること
  • 最終確認画面の拡張と、注文完了後の電子書面交付義務
  • 返品特約の一律拒否と、解約妨害
  • 見落とされやすい3つの拡張
  • 条番号はどこまで決まっているのか

本記事は2026年9月2日時点の情報に基づく解説です。消費者庁の公表資料(資料2-1「中間取りまとめ(案)」)の原文により確認しています。引用は原文のままで、当事務所の評価と区別して記載しました。未確認の論点は記事末尾に明記しています。

この記事の結論

  • ①ダークパターン一般を包括的に禁止する構成ではありません。誤認を招く表示・UI、攻撃的な表示、広告と判別困難な表示という悪質類型に絞る構成です。ただし手法の多様性を踏まえ「一定程度包括的な規律」を法律に置き、具体は下位法令とガイドラインに委ねるとされています。
  • ②解約場面は名指しされました。「解約手続を不当に遅延させる行為」と「契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為」の2類型です。効いているのは「契約手続に比して」という比較の視点です。
  • ③注文完了後の電子書面交付が義務化される方向です。現行の通信販売にはない義務で、最終確認画面との同一性が求められます。
  • ④これは「案」です。文書の日付は「令和8年〇月〇日」と月日が未記入、審議回数も伏字。法案の提出時期に関する記述は文書中にありません。それでも規律の方向は具体的で、準備を始める材料としては十分です。

第1章 2026年8月に何が起きたのか

同じ週に、2つの検討会が中間取りまとめ段階に到達しました。

検討会会合日法的性質
デジタル取引・特定商取引法等検討会
(本記事の対象)
2026年8月24日(第8回)行政取締法規
業務停止命令・指示等
消費者契約法検討会
(正式名称:現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会)
2026年8月31日(第8回)民事ルール
取消し・無効・差止め
同じ「解約妨害」という現象に、性質の異なる2つの網がかかる構図です。消費者契約法側は別記事で扱います。

本記事が扱うのは、前者の中間取りまとめ(案)です。行政が事業者を取り締まる側の話だとお考えください。

第2章 中間取りまとめ(案)の構成と、「案」の読み方

まず全体像です。全7章。本文26ページに、参考資料2ページ(委員等名簿・検討経過)が続きます。中心は第Ⅲ章です。

章表題本記事での扱い
Ⅰ・Ⅱはじめに/基本的視点—
Ⅲインターネット取引に対する対策の強化(全6節)第3章〜第8章
Ⅳインターネット取引以外の特定商取引に対する対策の強化
(レスキュー商法/点検商法等/後出しマルチ)
第8章で概観
Ⅴ厳正・円滑な法執行を確保するための方策第8章
Ⅵ・Ⅶその他の指摘事項等/おわりに第9章
第Ⅲ章の6節は、順に「勧誘的性質の強い取引」「広告場面の誘導手法」「契約場面」「解約場面」「契約プロセスの一部がインターネット外となる取引」「デジタルプラットフォーム対応」です。

「案」であることの意味

ここは正確に押さえておく価値があります。この文書は、まだ日付が入っていません。

箇所記載
表紙「令和8年〇月〇日」(月日が未記入)
Ⅰ はじめに「本年1月以降、○回にわたり議論を行った」(回数が未記入。ただし参考資料2「検討経過」には第1回(令和8年1月22日)から第8回(同年8月24日)までの全日程が載っており、8回であることは資料内から読み取れます)
Ⅲ6の見出し「デジタルプラットフォームの重要性の高まりを踏まえた対応⒫」(この節にのみ記号が付されている)
⒫という記号の凡例は文書中になく、意味は確認できませんでした。ただし、この節だけ他と異なる扱いを受けている可能性は読み取れます。

つまり確定した政府方針ではなく、第8回会合で審議されたドラフトです。ここを混同した解説を見かけますが、「決まった」と読むのは誤りです。

とはいえ、規律の方向は具体的に書かれています。準備の材料としては十分に使えます。

第3章 ダークパターンはどう規律されるのか

第Ⅲ章第2節が、いわゆるダークパターンを扱う部分です。案が規律対象とすべきとしたのは、5つの類型です。

類型対象となる表示・UI
① 誤認を招く表示
(取引条件)
支払金額(違約金等を含む)、分量、契約期間等について、一般的な消費者が通常の注意をもって見た場合に、その内容を正確かつ容易に認識できない虚偽・不明瞭な表示・UI
② 誤認を招く表示
(性能・内容情報)
口コミ、利用状況、在庫情報、タイムセール等であって、その内容が虚偽である表示・UI
③ 攻撃的な表示操作の反復または威迫的な文言等を用いて、消費者に迷惑を覚えさせ、または不安を生じさせるような仕方によって申込み・締結をさせようとする表示・UI
④ 意に反する申込みの規律拡張①②③を、消費者の意に反して申込みをさせようとするものとして、規律を具体化・拡張することを検討
⑤ 広告判別困難な表示広告であるにもかかわらず広告であることが判別し難い表示を禁止し、または広告である旨の明示を求める(景品表示法のステルスマーケティング規制との関係を踏まえつつ)
なお違反した場合の対応は「行政規律による是正を基本とすべきである」とされ、取消権等の民事効果は原則として付されていません。

②に注目してください。「残り3点」「いま12人が見ています」「タイムセール終了まであと10分」——こうした表示が虚偽であれば、正面から規律対象です。在庫連動やタイマー実装が実態と合っているか、確認しておく必要があります。

「包括的な規律」+「ブラックリスト」という構成

他方で、問題となる表示・UIの手法は多様であり、個別の手法をあらかじめ列挙し尽くすことは困難であることから、ダークパターン等の変化の早さにも柔軟に対応できる一定程度包括的な規律を検討すべきである。

その上で、具体的な射程や判断基準については、事業者の予見可能性を確保し、適正な表示・UI設計まで萎縮させないよう、下位法令やガイドライン等において違法なパターン(ブラックリスト)や適法なパターンを示す等の方法により明確化すべきである。

中間取りまとめ(案)8〜9ページより

実務への含意は明快です。法律の条文だけを読んでも、自社のUIが違法かどうかは判定できません。判定基準は下位法令とガイドラインに書かれます。そして「おわりに」には、その策定に際して「別途検討の場を設け」意見聴取を行うと書かれています。

つまりこの規制は、法改正が終わってからさらにもう一段の検討が続きます。事業者側から実務の実情を伝える機会は、その段階にもあるということです。

第4章 「一般的な消費者」の定義が変わる

見落とされやすいのですが、ここが今回の規律のいちばん深いところだと考えています。

本検討において用いる「一般的な消費者」とは、高齢者・未成年者等も含め、インターネット取引という状況の下で、表示内容や画面設計の在り方により、取引条件等の認識や選択に影響を受け得る通常の消費者を念頭に置くものである。すなわち、通常の注意を払う消費者であっても、取引環境や表示の態様によっては、その意思決定が歪められ得る(状況的な脆弱性を有する)ことを踏まえるものである。

中間取りまとめ(案)9ページ 脚注12より

従来の「一般消費者」は、属性としての判断能力を基準に考えられてきました。今回はそうではありません。

何が変わるのか

「注意深い人なら気づくはずだ」という反論が、従来より通りにくくなります。なぜなら、規律が想定しているのは「注意を払っていても、画面設計によって判断が歪められうる人」だからです。

UIの評価が、「ユーザーが読み落としたかどうか」から「その設計が判断を歪めうるかどうか」へ移ります。同じ画面でも、問いの立て方が変わるということです。

案は、こうした手法が国際的にダークパターンとして問題視されていることの典拠として、脚注でOECDの報告書(”Dark commercial patterns”、OECDデジタルエコノミー文書 2022年10月 No.336)を引いています。同報告書が「消費者を誘導し、欺き、強要し又は操って、多くの場合消費者の最善の利益とはならない選択を消費者に行わせるもの」をダークパターンと整理し、典型的な区分例として七つの例を示している、という紹介です。

そして案は、本文で次のように述べています。「オンライン上でのダークパターンは低コストで実施でき、対象とし得る消費者の規模もオフラインでの類似の慣行に比べ著しく大きいことから、消費者の被害の可能性も際立って大きい。」

第5章 チャット勧誘に、電話勧誘販売と同じ規律がかかる

第Ⅲ章第1節です。これは対象範囲の広さの点で、多くの事業者に影響します。

「チャット等」の定義

スマートフォンやPCの画面を通じた、特定の相手方に対する、双方向のやり取りのための文字情報等の送信(添付の画像や動画等の送信、リンク先のオンラインセミナー等における情報送信も含む。)を「チャット等」とすることが考えられる。

中間取りまとめ(案)5ページより

脚注では、SNSのメッセージだけでなく、電子メールおよびSMSも含むべきとされています。さらにオンラインセミナーへの誘導も明示されている点に注意してください。

対象と、対象外

 内容
対象①事業者から消費者に対してチャット等による勧誘を開始する場合
②勧誘目的を告げずに、または著しく有利な条件を提示するなどして消費者からチャット等を開始させ、そこでの勧誘により申込みを受け、または契約を締結する場合
対象外応答を不可としている一斉配信、双方向のやりとりを一切想定しない単発のポップアップ表示(それのみでは対象とならない)
②が実務上の急所です。「問い合わせ窓口」として開かせたチャットで商品提案に移行するフローは、ここに触れる可能性があります。

課される規律

チャット等による勧誘には、不意打ち性が高いという点で、電話勧誘販売と同様の性質が認められることを踏まえて、下記(ア)~(ウ)をはじめ、電話勧誘販売と同等の規律を講ずることを基本とすべきである。

中間取りまとめ(案)6ページより
場面提案されている規律
(ア)勧誘勧誘に先立ち販売業者等の氏名・勧誘者の氏名・商品役務の種類・販売目的を告げる義務/不実告知および事実不告知の禁止/威迫・困惑行為の規律/拒絶の意思を示した後の再勧誘の禁止(別アカウントを用いた継続も含む)
(イ)契約契約内容を十分に確認しないまま申込み・承諾に至るおそれ、および画面上で意思決定を誘導する手法の影響を踏まえた規律
(ウ)解約書面を受領した日から起算して8日間のクーリング・オフ/不実告知等による場合の取消権/過量販売の場合の解除権
通信販売にはクーリング・オフがありません。チャット勧誘が電話勧誘販売と同等に扱われるということは、その取引にクーリング・オフが付くということです。

脚注に置かれた、実務的に重い論点

勧誘者の氏名について、案は「戸籍上の氏名を告げるべきことを基本とする」としています。直罰や民事責任の主体になりうるため厳格な特定が必要、という理由です。ただしプライバシーや旧姓使用の議論を踏まえ引き続き検討、と留保が付いています。

ハンドルネームやニックネームで接客しているチャット運用は、この論点の射程に入ります。

第6章 契約場面──最終確認画面の拡張と、注文完了後の電子書面交付

第Ⅲ章第3節です。出発点は、この一文です。

しかしながら、同改正後も、定期購入に関する消費生活相談件数は高水準で推移している。

中間取りまとめ(案)10ページより(「同改正」は令和3年特定商取引法改正を指します)

令和3年改正で最終確認画面の表示義務を整備したのに、相談は減っていない。だから次の一手が必要だ、という組み立てです。

案が挙げる改正後の新たな手口は3つです。

  • 定期購入であることは認識しつつ、「定期縛りなし」「いつでも解約可能」等の表示により解約条件を誤認するもの
  • 最終確認画面の前後で、より有利な条件を提示するアップセル
  • 支払総額・契約期間・解約条件を一体として把握しにくい表示

ア 最終確認画面の義務の拡張

具体的には、現行法の最終確認画面の表示義務や誤認表示の禁止の範囲を拡張し、インターネット取引における最終確認画面における支払総額の表示、取引条件の分離表示の禁止等といった表示方法の義務付け等を行うべきである。

また、最終確認画面で注文を確定後に、前の契約内容を変更して別内容の契約をするよう事業者側から提示するようなケースに対しては、既に確定した注文内容を変更させる際に、変更前後の内容を対照させる等、変更箇所の明示を義務付けるべきである。

中間取りまとめ(案)11ページより

「取引条件の分離表示の禁止」——これは、支払総額・契約期間・解約条件を別々の場所に散らして表示することを封じる趣旨だと読めます。個々の項目は表示していても、一体として把握できなければ足りないという発想です。

イ 注文完了後の電子書面交付義務

契約内容を記載した電子書面等を、注文完了後遅滞なく、電子メール等により消費者に交付することを義務付けるべきである(なお、注文完了後に事業者側から新たな契約内容の変更が提案され、これにより、再度最終確認画面を通じて、消費者から新たな注文(申込み)がされた場合には、事業者は再度契約内容を記載した電子書面等を交付する必要がある。)。

中間取りまとめ(案)11〜12ページより

この規律には、注意して読むべき点が2つあります。

①「契約成立後」ではなく「注文完了後」である理由

脚注17に説明があります。通信販売では約款により注文後直ちに契約が成立しないことが多く、契約成立を基準にすると健全な事業活動に過度な影響を及ぼすうえ、交付のタイミングがかえって遅くなる場合もあるため、と述べられています。

つまりこれは事業者に不利な基準ではなく、むしろ実務を踏まえた調整です。

②交付方法にも要求がある

案は、交付する電子書面等について最終確認画面の記載との同一性および記載の明瞭性を担保すべきとし、交付方法は「後日改変されない形で保存可能な方法」とすべきとしています。

ただし脚注18で、フィッシング対策により添付ファイルを開かない行動が一般化していること、通知事項が長大だと読まれにくいことを踏まえ、本文記載とリンクの情報量バランスを考慮すべきとされています。「PDFを添付すればよい」という設計は、この脚注に照らすと再考の余地があります。

第7章 解約場面──返品特約の一律拒否と、解約妨害

第Ⅲ章第4節です。2つの規律が提案されています。

ア 返品特約の不当な濫用

販売業者が、購入者から債務不履行解除などの法定返品権によらない契約の解除等の通知又はその申出を受けた場合には、当該申出に係る事実関係について社会通念上通常必要とされる確認を行うことなく、返品特約のみを理由として法令又は契約上の権利が存在しない旨を告げる行為を、新たに行政処分の対象として規制することが適当である。この点については、インターネット取引に特有の問題ではないため、通信販売一般の規律として検討すべきである。

中間取りまとめ(案)13ページより

ここは丁寧に読む必要があります。返品特約そのものが否定されているのではありません。

場面評価
法定返品権(引渡日から8日間)を返品特約で制限することこれは現行法上も認められています。案も否定していません
商品が届かない/注文と異なる/不良品という申出に対し、事実関係を確認せずに「返品特約があるので応じられません」と告げることこれが新たに行政処分の対象
問題とされているのは、民法上の解除権や損害賠償請求権を行使できる場面で、確認をせずに一律に拒否する運用です。

これはコールセンターの応対マニュアルの問題です。「返品特約がありますので」で会話を終える定型応答が入っていないか、確認しておく価値があります。

イ 解約手続妨害

主にオンライン上の表示・UIの設計・運用の高度化等に由来する論点(ダークパターン等)として、解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為について、取引慣行も踏まえつつ、違法行為として規律の対象とすべきである。

中間取りまとめ(案)13ページより

効いているのは「契約手続に比して」という比較の視点です。絶対的な複雑さではなく、申込みとの非対称性が問われています。

同時に「合理的理由なく」という限定が付いています。本人確認の必要性など、個別の事情による差異まで一律に違法とされるわけではありません。ただし、その理由を説明できる状態にしておく必要があります。

当事務所の整理です

「解約は電話のみ」という運用自体が直ちに違法になるとは、案からは読み取れません。問われるのはその差の理由です。

たとえば「解約時には本人確認と契約内容の説明が必要なため」という理由は、一応の説明になります。しかし申込み時にはオンラインで本人確認が完結しているのであれば、その説明は成り立ちにくくなります。申込み側の設計が、解約側の言い訳を封じることがあります。

なお、脚注20には「手続的な解約妨害の全てがインターネット取引に特有の問題であるか…については、引き続き検討が必要である」とあり、対象範囲はまだ動きうる論点です。

第8章 見落とされやすい3つの拡張

ここまでが報道でも取り上げられる部分です。実務上は、次の3つのほうが影響が大きい業種があります。

① ネット集客+店舗契約が、訪問販売になる

第Ⅲ章第5節です。現行法では、チラシ・パンフレット等で勧誘目的を隠して来店させる行為はアポイントメントセールスとして訪問販売の規制対象になりますが、インターネット上の表示は対象外です。

案は、ウェブページ上の表示を契機とする来店誘引もアポイントメントセールスの一類型として訪問販売の規制対象とすべきとしています。勧誘目的秘匿と評価すべき行為として、「無料体験」「モニター募集」等と表示しつつ、次のような態様が例示されています。

  • 有償契約の勧誘があることを隠匿するもの
  • 無料参加のみを強調し、販売意図を否定するもの
  • 有償契約の締結なしには体験できないのに、体験のみ参加可能と表示するもの
  • 来店後に勧誘される商品・役務が実質的に読み取れない態様の表示

訪問販売に該当すれば、書面交付義務とクーリング・オフが付きます。ウェブ広告で無料カウンセリングに集客し、店舗で契約するモデルは、この節を読んでおく必要があります。

② SNS・広告プラットフォームへの削除要請と、免責規定

第Ⅲ章第6節です。案は、消費者庁等が誇大広告等について行政処分を行った場合に、その広告が表示されているプラットフォームに対して要請を行える仕組みを提案しています。

…当該行政処分に係る誇大広告等がインターネット取引の基盤提供者等(取引デジタルプラットフォーム提供者にとどまらず、広告表示の画面を提供している広告・SNSのプラットフォーム提供者等)の運営する場で表示されているときに、当該基盤提供者等に対して行うことができるようにする。

消費者庁の要請に基づき対応を行った場合には、当該対応を行ったインターネット取引の基盤提供者には販売業者等との関係で損害賠償責任を免責されることとする。

中間取りまとめ(案)16ページより

2点、重要です。第一に、対象が取引デジタルプラットフォームを超えて広告・SNSプラットフォームまで広がります。取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の枠外にいた事業者が入ってきます。

第二に、免責規定が置かれます。プラットフォーム側が削除に踏み切れない理由の一つは、出稿事業者からの損害賠償リスクでした。ここを外す設計です。広告を出稿する側から見れば、削除されやすくなるということです。

③ 法執行のやり方が変わる

第Ⅴ章です。3点を挙げておきます。

項目内容
(1)関係機関の連携強化・
行政指導の更なる活用
国・経済産業局・都道府県の情報共有等の連携を強化する。あわせて行政処分に加え、事案の性質に応じて行政指導等を積極的に活用し早期是正を促すべき
(2)AI技術の活用表示等の収集・分析・検知にAI技術等の活用を検討すべき。ただし脚注で「表示や取引全体の最終的な評価は執行部署が個別に行う必要があり、AIはあくまで情報収集・分析及び判断を支援する手段」と限定
(3)複数事業者への対応契約締結主体とは別の事業者が広告やチャット勧誘を担当する事案について、販売業者と実質的に一体となって取引に関与する者には厳正に対応
(4)適格消費者団体への
権限付与
今般検討するインターネットを利用した不当な勧誘等の規律についても、適格消費者団体による差止請求の対象とすることを検討すべき
脚注33には「行政規律(刑事罰を除く)は原則として違反事業者の故意・過失は問わない」とあり、過失による違反も悪質性が低いものとはしないと念押しされています。

(3)は、広告代理店やアフィリエイター、コールセンター委託先を使っている事業者に効きます。「委託先がやったこと」という整理が通りにくくなる方向です。

そして(4)が、実務上いちばん早く現実になりうる項目です。案は次のように述べています。

現行の特定商取引法においては、訪問販売等の各取引類型における不当な勧誘等について、適格消費者団体による差止請求制度が設けられている。インターネット上の不当なチャット等による勧誘は、多数の消費者に反復して用いられる可能性があり、個別の被害救済に加えて、問題となる行為に対して早期に差止めを行う必要性が高い。

このため、今般検討するインターネットを利用した不当な勧誘等の規律についても、被害の未然防止及び拡大防止を図る観点から、適格消費者団体による差止請求の対象とすることを検討すべきである。

中間取りまとめ(案)23ページより

差止請求は、行政処分と違って行政の人員や優先順位に縛られません。全国の適格消費者団体が、それぞれの関心で動きます。そしてこの制度は現行法の下ですでに機能しており、法改正を待っていません。この点は別記事で詳しく扱います。

第9章 条番号はどこまで決まっているのか

実務家として、いちばん知りたいのはここでしょう。結論から申し上げると、ほとんど決まっていません。

全文を走査したところ、特定商取引法の具体的な条番号が明示されているのは第6条のみで、19ページに本文と脚注で計2箇所あるだけでした。

また、クーリング・オフに関する事業者の行為のうち、不実告知、威迫・困惑等に該当し得る悪質な行為については、特定商取引法第6条の禁止行為の該当性を明確化し、必要に応じて規定の見直しを検討することにより、直罰の対象となることを明確化すべきである

中間取りまとめ(案)19ページより

この引用の位置に注意してください

この一文は、第Ⅳ章(インターネット取引以外)の「解約妨害への対応」に置かれています。つまり訪問販売等の文脈であって、本記事の第7章で扱ったインターネット取引の解約妨害の規律ではありません。

特定商取引法第6条は、訪問販売における禁止行為(不実告知、故意の事実不告知、威迫・困惑等)を定める規定です。「ネットの解約妨害が第6条に入る」と読むのは誤りです。

これ以外の条番号への言及はありません。最終確認画面の規制についても「現行法の最終確認画面の表示義務」と条番号なしで記述されています(実際には第12条の6ですが、案は条番号を挙げていません)。

他法令についても、景品表示法、消費者契約法、民法、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法はいずれも法令名レベルの言及にとどまります。

これは中間取りまとめとしては自然な姿です。条文化は法制局との作業であり、報告書の役割ではありません。ただし、これを踏まえた実務対応としては——「どの条文に該当するか」で備えるのではなく、「どういう設計が問題視されているか」で備えるほかない、ということになります。

今週やるべきこと

案の段階ですから、いま契約書を書き換える必要はありません。やるべきは棚卸しです。

順序やること目安
1日目申込み導線と解約導線のステップ数・所要時間・受付時間を書き出し、並べて比較する。差があれば、その理由を1行で書けるか試す2時間
2日目チャット・メール・SMSから商品提案に移行するフローがあるか棚卸しする。ある場合、勧誘目的の事前告知が入っているかを確認半日
3日目注文完了後に支払総額・契約期間・解約条件を記載したメールを送っているか。送っている場合、最終確認画面の記載と一致しているかを突き合わせる2時間
4日目在庫表示・閲覧人数・タイマー等の実装が実態と連動しているかを開発側に確認する。「固定値」「ダミー」があれば要検討2時間
5日目コールセンターの応対マニュアルに、「返品特約がありますので」で終える定型応答が入っていないか確認する1時間
いずれも法改正を待たずにできることで、かつ現行法の下でも意味のある点検です。

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→ 消費者契約法検討会の中間取りまとめ案──「解約させない設計」に民事ルールから網がかかる

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本稿執筆時点で未確認の論点

  • 中間取りまとめの正式な取りまとめ日。案の表紙は「令和8年〇月〇日」と月日が未記入です。
  • 中間取りまとめ本体の公表時期、および法案の提出時期。「法案」「国会」「通常国会」といった語は、文書中に一度も現れません。「必要な制度整備の実現を早期に図るべきである」という時期を特定しない表現にとどまります。
  • パブリックコメントの実施予定。「パブリックコメント」「意見公募」の語も文書中にありません。ただし下位法令・ガイドライン策定時に「別途検討の場を設け」意見聴取を行うとの記載はあります。
  • 各規律が特定商取引法のどの条文に置かれるか。案で条番号が明示されているのは第6条のみです。
  • 法律本体に規定する事項と、政令・省令・ガイドラインに委ねる事項の切り分け。
  • 第Ⅲ章第6節の見出しに付された「⒫」の意味。文書中に凡例がなく、確認できませんでした。
  • 相談件数の実数。案には「高水準で推移している」等の定性的な記述のみで、統計表・グラフは含まれていません。数値を確認するには、同検討会の他の回の説明資料またはPIO-NETの公表資料を別途参照する必要があります。

おわりに

この中間取りまとめ(案)を読んで、いちばん印象に残ったのは第4章で引いた脚注12の定義でした。

「通常の注意を払う消費者であっても、取引環境や表示の態様によっては、その意思決定が歪められ得る」。

これは、「読まなかったユーザーが悪い」という反論の土台を、静かに外している一文です。UIの評価軸が、読み手の注意力から設計の作用へ移る。今回の規律の思想は、条文の細部よりもここに現れていると思います。

そのうえで申し添えると、案は健全な事業活動への配慮も繰り返し述べています。「適正な表示・UI設計まで萎縮させないよう」という一節や、電子書面交付を「契約成立後」ではなく「注文完了後」とした調整は、その表れです。この規制は、通常のECを敵視するものではありません。

だからこそ、いま自社の導線を見ておく意味があります。問題とされるのは、多くの場合、悪意をもって作られた画面ではありません。解約導線だけが何年も更新されないまま残っている——そういう放置が、比較の視点で見たときに非対称として現れます。

当事務所は、事業スキームから法的リスクを洗い出すことを方針としています。「この規約に問題はないか」ではなく、「この導線が、誰にどう説明できるか」という視点で拝見します。EC・サブスクリプション・チャット接客の設計について、お気軽にご相談ください。

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