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【弁護士監修】AIに「弁護士の考え」を移植する──リーガルチェックAIを改訂しました

【弁護士監修】AIに「弁護士の考え」を移植する──リーガルチェックAIを改訂しました

「AIは、大量の同じ処理は得意だが、カスタマイズされた処理は苦手だ」——よく言われることです。私も長らく、そう思っていました。

しかし、それは正確ではありませんでした。このたび、自社開発の契約書リーガルチェックシステムを改訂し、「弁護士堀内ならどう判断するか」がそのまま反映されるAIを作り上げました。今回は、その改訂の中身と、そこから見えた「AIとカスタマイズ」の本質についてお話しします。

この記事の要点(30秒まとめ)

  • 自社開発の契約書リーガルチェックAIを改訂。従来は一般的な基準でのチェックだった。
  • 改訂の理由は、チェック結果が必ずしも弁護士堀内の意見と一致しなかったこと。
  • 解決策は、堀内の経験・ノウハウを「堀内の考え」としてMD(データ)化し、AIがそれに従って判断する構造にしたこと。
  • 新仕様として「誰の立場でチェックするか」の入力を追加。立場が変われば有利・不利は逆転するため。
  • 結論:判断の方針を明文化してAIに渡せば、AIはカスタマイズされた処理ができる。人間の思考構造を体系化しデータ化すれば、その人が考えたのと同じ結果をAIが出せる。

これまでの経緯──「使える」ところまでは来ていた

当事務所が自社で契約書リーガルチェックシステムを開発し、実務で使っていることは、これまでのブログで詳しくお伝えしてきました。情報漏洩を避けるための独自システムの構築(実証①)、取引適正化法違反を実際に発見できるかの検証(実証②)、そして市販AIとの精度比較(前編実証編①実証編②)です。

これらの検証を経て、システムは実務で十分に使えるレベルに達していました。判例やガイドライン、契約書のひな型を読み込ませ、法令違反や不利な条項を的確に拾い上げてくれる。ここまでは、順調でした。

なぜ改訂したのか──「正しい」けれど「私の意見ではない」

ところが、使い込むうちに、ある違和感が出てきました。

AIが出してくるリーガルチェックの結果は、法的には間違っていない。けれども、必ずしも弁護士堀内が出す結論と同じではなかったのです。

これは、考えてみれば当然のことでした。契約書のチェックには、法令違反の有無だけでなく、「この条項は入れておくべきか」「この取引でこの条件を飲んでよいか」といった、経験に裏打ちされた判断が数多く含まれます。同じ契約書を見ても、弁護士によって指摘するポイントも、推奨する修正案も違ってくる。それが実務です。

私が顧問先にお渡しするレポートは、「一般的に見て問題がないか」ではなく、「弁護士堀内が、御社の立場で見てどう考えるか」でなければ意味がありません。AIの出す答えが私の意見と食い違うのであれば、結局は私が全部を見直すことになり、AIを使う価値が半減してしまいます。

そこで、システムを根本から改訂することにしました。目指したのは、「弁護士堀内ならどういう結論を出すか」がよく現れるAIです。

改訂の中身──「堀内の考え」をデータ化する

やったことは、シンプルに言えばこうです。私がこれまでの実務で培ってきた経験とノウハウ——どんな場合に、どの条項を、なぜ問題視するのか——を、「堀内の考え」という形でMD(マークダウン)のデータにまとめ、AIがそのデータに従って判断するように構成し直しました。

ポイントは、単に知識を足したのではない、という点です。判例やガイドラインは以前から読ませていました。今回加えたのは知識ではなく、判断の基準そのものです。「この類型の契約では、この条項を必ず確認する」「こういう定め方は、こういう理由で当方に不利になる」——そうした私自身の思考の道筋を、AIが参照できる形に落とし込みました。

前回の記事「AIに読ませる「データの作り方」」で、AIの精度を決めるのはデータの整形だと書きました。今回はその発想を一歩進めて、整形するデータの中身に「弁護士の判断基準」そのものを据えた、ということになります。

新仕様──「誰の立場でチェックするのか」を指定する

あわせて、システムの入口も作り変えました。トップ画面では、契約書のPDFをドラッグ&ドロップし、その下で「当方(クライアント)の立場」を指定できるようにしています。これは、以前のシステムにはなかった仕様です。

契約書リーガルチェックシステムのトップ画面。PDFをドラッグ&ドロップし、当方(クライアント)の立場を指定できる
改訂後のトップ画面。契約書をアップロードし、「当方の立場」を指定してチェックを実行する。

なぜこの入力を加えたのか。契約書のリーガルチェックでは、誰の立場に立って検討するのかを明確にすることが決定的に重要だからです。同じ一つの条項でも、発注側から見れば有利、受注側から見れば不利、ということが日常茶飯事です。立場が変われば、有利・不利の判定はそのまま逆転します。

「堀内の考え」は、まさにその立場の違いを踏まえて作られています。ですから、立場を指定できるようにすることで、この判断基準をフルに活かせるようになりました。画面には、堀内の基準が用意されている契約類型(業務委託契約書、継続的売買契約書、販売業務委託契約書)も明示し、該当する類型では堀内の基準を最優先で適用する設計にしています。

実際の出力──「堀内の方針」が結論に現れる

実際にどう動くのか。業務委託契約書をチェックさせた結果の一部をご覧ください。

リーガルチェック結果の画面。中途解約条項の定めなしを高リスクと判定し、根拠として堀内基準を明示している
チェック結果の一部。「堀内の方針」という欄が設けられ、判断の根拠が明示される。

注目していただきたいのは、次の3点です。

第一に、「根拠:堀内(堀内基準 第18条 中途解約)」と明記されている点です。AIが、一般的な基準ではなく「堀内の考え」を使って判断したこと、そしてどの項目を使ったのかが、はっきり表示されます。

第二に、指摘の中身です。この契約書には中途解約(任意解除)の条項がなく、債務不履行や信用不安を理由とする解除しか定められていませんでした。そこでAIは、当方(委託者)が任意に解約できる根拠がないこと、解約時の委託料清算・返金ルールもなく前払分が戻らないリスクがあることを、高リスク/重大として指摘しています。

第三に、「堀内の方針」の欄です。ここには「中途解約は自由にできるようにしつつ、委託者が解約した場合は受託者が既に負担した実費相当額のみ支払えばよい旨を定める」という、私自身の考え方がそのまま現れています。そして推奨対処として、具体的な条項案まで提示される。

つまりこのAIは、「中途解約条項がありませんね」と機械的に指摘しているのではありません。「弁護士堀内なら、この契約に中途解約条項を入れるべきだと考える。なぜならこういう理由だから」という判断を、根拠付きで再現しているのです。

AIは本当に「カスタマイズが苦手」なのか

ここで、冒頭の話に戻ります。

「AIは大量に同じ処理をすることに長けているが、カスタマイズされた処理をするのは苦手」。よく聞く評価です。しかし今回の改訂で、私はこの評価が正確ではないと確信しました。

たしかに、何の方針も与えずに「いい感じにチェックして」と頼めば、AIは最大公約数的な、当たり障りのない答えを返します。それを見て「カスタマイズが苦手だ」と結論づけるのは、早計です。

では、どうすればよいか。答えは、カスタマイズの方針を、こちらが明確に言語化して、AIの判断の前提として渡すことです。

具体的には、「●●な場合には、▲▲という点を考慮して結論を出す。なぜなら■■だからだ」という形で方針を明示する。この形にまで落とし込めば、AIはそのとおりに判断します。「堀内の考え」は、まさにこの構造の集積です。曖昧な「雰囲気」ではAIは動きませんが、方針が構造化されていれば、AIは驚くほど忠実にカスタマイズされた処理を実行します。

「AIの真骨頂」とは何だったのか

以前、「AI時代の契約書作成業務」で、私はこう書きました。

「AIをうまく使えば、最大公約数的でもスタンダードでもない契約書を作ることができる」ということなんです。むしろ私は、この点こそがAIの真骨頂だと思っています。

当時はまだ、感覚的な確信でした。しかし今回の改訂を経て、その意味がはっきりと言語化できるようになりました。

AIの真骨頂とは、こういうことです。人間の思考構造そのものを体系化し、それをデータ化し、そのとおりに判断せよとAIに指示すれば、その人間が思考したのと同じ結果をAIが作り出せる——ということです。

AIは「人間の思考を模倣するもの」です。ならば、模倣させるべき思考を、こちらが明確に差し出せばよい。曖昧なまま渡すから曖昧な答えが返るのであって、思考の道筋を体系立てて渡せば、AIはその人の判断を再現できるのです。

これから──「本物の弁護士と同じ結論」を、速く、正確に

AIの持ち味は、人間以上にミスなく、しかも迅速に結論を出せることです。人間は疲れますし、見落とします。AIは疲れず、何度でも同じ精度でチェックします。

これからは「堀内の考え」を継続的に拡充していきます。目指すのは、この持ち味を活かしながら、さらに一歩進めること——「ミスなく迅速に出された結論の中身が、本物の弁護士が検討したのと同じものになる」という状態です。

速いだけでは足りません。正確なだけでも足りません。速く、正確で、しかも中身が弁護士の判断そのものである。そこまで到達して初めて、AIはクライアントの皆様の利益に直結します。その一点を目指して、これからも開発を続けていきます。

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おわりに

今回の改訂は、AIに知識を足す作業ではなく、弁護士の判断そのものをAIに移植する作業でした。地道で、時間のかかる仕事です。しかし、これができるのは、法律の中身を理解し、かつ自分でシステムを組める人間だけだと思っています。

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